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「『成院』と『戒院』」2

2020年01月21日 | T.B.2010年
「成院」

『成院』は大樹に呼び止められる。

「なんだ、義兄さん」

「少し良いか?
 というか、その呼び方は止めてくれ」
「だが、大樹は晴子の兄だし」

妻の夫で、義兄さん。

「聞こえは同じなのだから、
 兄さんと呼ばれていると思えば」

村では実際の兄妹姉妹に関係無く
年上の者を『兄さん』『姉さん』と呼ぶ。

「お前の場合、
 それがしっくり来ないから言っているんだ」

「ははは、
 それならば、なんだ、大樹」

「病院の人では足りているか?」
「なんとか、な」
「裕樹はどうだ」
「裕樹?
 あぁ、飲み込みも早いし、やる気もある。
 よい医師になるんじゃないか」

医師見習いの青年。
教え甲斐がある、と
『成院』は答える。

それに、

「元々戦術師だから、
 現場で動けるタイプの医術師になるだろうな」
「………」
「心強いだろう」

「確かに」

大樹は言う。

「お前と同じだな、成院」

その言葉に、
二人は歩みを止める。

「何が言いたい。
 ………何を言いに来たんだ大樹」

「先日、
 次代大師の話が出た」

自分が先に退室したあの時か、と
『成院』はため息をつく。

「次代と言っても、
 明日明後日の話しではないのだろう」

焦るなよ、と。

「だが、急ごしらえで据える訳にはいかない。
 跡を継ぐべき者は、
 学ぶべき事、知るべき事が多くある」
「うん、俺もそのつもりで居るよ」

お互い大変だな、と
大樹の肩を叩く。

大樹は占術の腕が高い、
次代は彼で間違い無いだろう。

「まあ、大医師からはしてみれば
 俺はまだまだだ、
 代替わりの道は長いだろうが」
「戻る気は無いのか?」
「戻る?」

「次代の戦術大師は、
 お前と言われていたじゃないか」

ああ、そうだ、と
『成院』は頷く。

「でも、それは昔の話しだ」

「いつまでも佳院に
 大将をさせるわけにも行かない」
「次代宗主様だからな」

けれど、と『成院』は断る。

「体裁が付かないのは分かるが、
 こればかりは、すまない」

成院、と大樹の声が大きくなる。

「戒院の意志を継ぎたいのは分かる。
 お前は充分やっている、けれど!!」

「………その話は止めてくれ」

『成院』は大樹の話しを遮る。

「なあ、大樹。
 お前の占術で俺が大将になると出ているのか」

違うだろう、と。

「………ああ」

大樹は頷く。
候補の者は居ない。
そう出ているから焦っている。

「気を害することを言ったな、
 悪かった」

「いや、大樹が村の将来を心配しているのは分かっている。
 ………俺達の代で居ないのならば
 次の代を早めに育てるしかないだろう」
「そうだな」
「急にどうしたんだ」
「いや、俺も焦ってしまったんだ」
「冷静な大樹が珍しい」

「………」

大樹はじっと、遠くを見る。

「ちょっと、案として、な」
「ああ」
「水樹はどうかって」

『成院』は大樹の弟を思い浮かべ、
あ~、と大樹と同じく遠くを見つめる。

「俺も、それはちょっとどうかな、って思う」
「だろ!!!!!」


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