TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」11

2020年01月24日 | T.B.2020年

 彼女と父親は、水辺の近くへとやって来る。
 途中まであった道がなくなり、木々が生い茂っている。

 この前、彼女が来たときと同じ。

 もちろん、誰もいない。

「寒いっ」

 父親はあたりを見渡す。

「父様、ここ?」

 父親は、紙を取り出す。

「ここに何かあるの?」

 父親は屈む。
 地面をなぞり、陣を描く。

 東一族式の紋章術。

「形代ね」
「そう」

 紋章術の上に、その形代を置く。

 瞬間。

 ふわりと、形代は燃え上がる。

 その痕は、ゆっくりと風に乗る。

 それを見て、父親は祈る。
 彼女も真似る。

 冷たい風。

 彼女は、顔を上げる。

 父親は、まだ祈っている。

「誰に祈っているの?」
「…………」
「ねえ、父様」
「無事を、」
「無事?」
「…………」
「いったい誰の?」

 彼女が云う。

「母様?」
「違う」
「…………?」

 彼女は首を傾げる。

「父様?」

 父親は目を開く。
 空を見る。
 彼女も見る。

 形代の痕は、もはや、ない。

 風が吹く。

 父親は口を開く。

「この祈りは」
「うん?」
「東一族の宗主を殺しに来る者へ、だ」
「ころ……?」

 彼女は息をのむ。

「そんな、……無理な話、」
「どうなるのか……」
「無理だよ、絶対無理!」

 彼女が首を振る。

「誰? 西一族? 絶対、父様には勝てない」
「…………」
「父様」
「…………」
「やめて」

 父親は立ち上がる。

「父様が死んだら、……私、困る」
「そんなことはない」
「…………」
「先の話ではないはずだ」
「父様!」

 彼女は父親を掴む。

「なぜ、その人に祈るのよ!」
「…………」
「やめて!」
「…………」
「父様ってば!」

「残念ながら」

 父親は、再度空を見る。

「勝つことは出来ない」
「どっちが!?」
「その相手、だ」
「はっ!」
 彼女は云う。
「だよね! 父様が負けるはずないもんね!」

 東一族の現宗主は、歴代一の力を持つと、云う。

「よかった父様! よかった!」

 彼女は微笑む。
 父親は、彼女を見る。

「だから、どうしたらいいのか、悩んでいる」
「何でよ! 父様が勝てば、それでいいの!」

 父親は歩き出す。
 彼女も続く。

 屋敷へと戻る道。

 彼女は、父親の背中を見る。

 彼女が

 父親の真意を知ることになるのは

 もう少し、先。






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