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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」3

2020年01月28日 | T.B.2010年
「よーう裕樹、元気!!?」

どーん、と水樹が診察室に入ってくる。

「兄さん、声大きい!!」

病院なんだからさ、と
裕樹が慌てる。
実の兄弟ではなく、年上の者をそう呼ぶ習慣で
裕樹は水樹を兄さんと呼ぶ。

「大丈夫、ここまでの道のりは
 俺静かにしていた」

が、ハッと水樹は閃く。

「裕樹元気、って
 なんか響き良くない!!?」
「いや、それ言うと
 東一族の男ほとんど当てはまるし」

大体みんな名前に樹が入っている。

「成先生は残念だったな」

樹、付かないメンバー。

「いや、『院』付く方が
 残念って兄さん」

何言ってるのこの人、と
裕樹が呆れる。
『院』は宗主に連なる者しか名乗れない名。

『成院』の祖父は
先代の宗主の兄弟。
宗主ではないが、その血筋の家柄。

「先生」

ちらりと、裕樹は『成院』を見る。

「うん、水樹」

『成院』は笑顔で言う。

「とりあえず、怪我した腕を出せ!!」

「ああ、本当だ
 兄さん怪我してるんじゃんか」

言われて見てみると、
出血は少ないが、左腕が紫になっている。
打ち身と言うよりは、

「毒針、か」

『成院』は毒抜きの準備をする。

「兄さん毒を受けたら
 あまり動き回らないでよ」

その補佐をしながら裕樹が言う。

あと、もっと怪我したーって感じを
出しながら来て欲しい。

「最近、
 砂一族の様子はどうだ?」

『成院』が問いかける。

「うーん、いつも通りっちゃ
 いつも通りだな」

長く敵対している、
砂漠を挟んだ向こうの一族。

「何か、大きな事を企んでいるって
 訳でも無いと思うけれど」
「けれど?」
「………うーん、何というか」
「言ってみろ」

「お前が砂一族だったら、どうする?」

「んー、
 そもそも根本的な考え方が違うから
 なんとも、だけど」

水樹は『成院』を見て答える。

「次代の大師は潰す」

医術大師の次代と言われている『成院』
占術大師、戦術大師、各々の次代。

「まず現大師より守りも薄いだろ、
 それに次代を潰しておけば
 今は大変でも、後が楽になる」
「そうだな」
「足元が崩れたら、
 残すは宗主だ」

「うん」

そうだ、と『成院』は頷く。

「そう簡単には崩させないけれどな」
「まあね」

「兄さん、それ、人前で言わない方が」
「やっぱり!?」
「ああ、だが佳院――っと
 大将には言っておけ」

分かってはいるだろうが、と
『成院』は言う。

水樹は直感的に動く所があるので
大勢に指揮を出すのは難しいだろうが、
何より勘が良い。

今は難しいかもしれないが
いずれはもしや、と
『成院』は思う。

「あ!!」

水樹が何か思い出した様に言う。

「他に何か思い当たることがあるのか?」
「いや」

水樹は言う。
凄いことを、閃いた、とばかりに。

「成院病院って響き良いなって!!!」

「「………」」

「兄さん、そんなんだから、
 いつまで経っても、さぁ」
「なんだよ、
 お前の所のちびっ子、
 大きくなったか?何歳だ?」

誕生日祝いの品を届けるぞ、と
声の大きな水樹に、
うーん、と『成院』はため息をつく。

いずれは
結構なかなか先かもしれない。

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