TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」1

2020年01月14日 | T.B.2010年
「よし」

陸院は未央子を指差して言う。

「みおこ、俺のけらいな」

えー、と未央子は言う。

「なんで私が陸院のけらいなのよ」

言われた陸院は胸を張る。

「だって、俺。
 宗主の息子だぞ」
「だからなんだってのよ」
「えらいんだぞ」
「えらいのは陸院のお父さんでしょう」

分かってないな、と
陸院は言う。

「父さんがえらいってことは
 俺もえらいって事だよ」

なんたって、陸『院』だしな、と
胸を張る。

「それなら、
うちのお父さんも『院』だよ」

「ちがう、未央子の父さんは院だけど
 ギリギリ、院だからちがう」
「ちがわないわよ」
「いいから、けらいになれよ」

陸院はふんふん、と地団駄を踏む。

「いやよ。
 どうぜ言うこときけとか
 ムリばっかり言うんでしょう」

「うちのごはんはおいしいぞ」
「お母さんのごはんだって
 おいしいもん」

二人のやりとりを見ていた辰樹は
ピン、と来る。

「これ、ごはんにさそってるやつだな」

はいはーい、と
手を上げて言う。

「陸院、俺もいく」
「おまえはいいよ、こなくて!!」

「未央子」

ふ、と現れた大きな手が
未央子の腕を引く。

「待たせたな、帰るぞ」

未央子は『成院』を見上げて言う。

「お父さん、おかえりー」
「良い子に待っていたか?」
「うん!!」

よし、と『成院』は未央子を抱える。

「辰樹はどうする?」
「俺の父さんは?」
「お前の父親はまだ宗主様とお話し中だ」

えーっと、それじゃあ、と
辰樹は陸院を見る。

「ごはん?」
「やらん!!」

残念、と辰樹は首を振る。

「じゃあ、俺もかえる」
「よし、来い」

反対の空いた手で、
辰樹の手を引き、『成院』は屋敷を後にする。

「それじゃあ、陸院様」

去り際に頭を下げる『成院』に
ふん、と陸院はふてくされる。

「ねぇねぇ、お父さん」

未央子は『成院』に問いかける。

「宗主様と何のおはなししてたの?」
「村の事やみんなの事を決めたりしていたんだ」
「そうなのかー」

ふうん、と分かっていないだろうけど
分かったわ、と未央子は頷く。

「で、俺の父さんは
 いのこりなのか」

居残りって言葉よく知っていたな、と
『成院』は答える。

「お前の父さんは占術師だから、
 これからもっと込み入った話だ」
「こみいるのか」

「お父さんは、
 こみいった話しにはいなくて良いの」

まだ待てるよ、という未央子に
『成院』は首を振る。

「俺は、ただの医者だからな、
 戦術の話しはできないのさ」



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「辰樹と媛さん」9

2020年01月10日 | T.B.2020年
「冷えるわね」

 葉が散る時期が終わり、寒さが厳しい時期に入る。

 従姉が、彼女の部屋に何か運んでくる。

「従姉様、それは?」
「新しい年の飾りよ」

 さあ、部屋を片付けて、飾りましょう、と
 従姉は手際よく動く。

 彼女はごろごろする。

「いや! そこは、ごろごろしない!」
「掃除苦手だな~」
「らしからぬ……」

 従姉は、彼女の手に布を握らせる。

 渋々彼女は動く。

 と

 はらりと、何かが落ちる。

 従姉の肩に止まっている鳥の羽。
 彼女はそれを拾う。

「はーん。羽が落ちましたよー」
「あら、失礼」

 従姉は鳥に目で合図する。
 すると、その鳥は、ふわりと外へ飛んでいく。

「賢いね、従姉様の鳥」
「もちろん」

 手を動かしながら、従姉は云う。

「私たちは動物を友とする一族だもの」
「うん」
「動物は皆、賢いのよ」
「私にはなぜ、供がいないの?」

 彼女は首を傾げる。

「ああ、そう云えば」
「いつもらえるの?」
「そうね」

 従姉も首を傾げる。

 東一族は、動物を供とする。
 特に高位家系はその能力が高く、幼いころより、動物を供として育つ。

 従姉もそうだ。
 幼いころより共に育った鳥とは、一心同体のようなもの。

「従兄様も連れているよねぇ」

 従姉の兄だ。
 現在は宗主と戦術大師の補佐を務めている。
 もちろん、供を連れている。

「私もほしいな」
「宗主様に窺ってみたら?」
「そうするー」
「じゃ、手を動かして!」

 掃除の再開。

 従姉は、順番に部屋を拭き上げ
 彼女は、細かいものを片付ける。
 順番に見ながら
 わ~、きれーい、とか。

「これは、しまいますか?」

 彼女はそれを見る。

 旧びた装飾品。

「ああ、それはここに」

 入れておいたはずなんだけど。

「きちんと片付けて」
「はーい」

 彼女は、装飾品を収める箱を開く。
 従姉がそれを入れる。

「ずいぶん、いろんな装飾品が……」

 従姉は箱の中を覗く。

 箱の中には、何種類かの装飾品が並ぶ。

 東一族の装飾品。

 普通、装飾品はひとり1種類、ふたつ。
 生まれたときに、親が子に贈るもの。
 その彫られた模様はひとりずつ、すべて違う。
 なので、本来、ひとりが持つのは、腕に付けている1種類だけのはずなのだ。

 大きくなれば、好きな相手に贈ったりとか、あるけど

「…………」
「ないな」
「従姉様?」
「うん。ない」
「ちくりと、非道いことを」

 彼女も、箱の中を見る。

「私収集品」
「拾ったの?」
「違うよ」
「なら、そんなにいろんな種類をなぜ?」
「何でかな? あ、これは父様の」
「宗主様のかなり貴重なものが、こんな適当に、がさっと……」
「他は誰のものか、父様に訊いてみようー」
「そうして」
 従姉は頷く。
「じゃ、手を動かして!!」
「休憩しようよー」
「まだ、半分も終わってないからね!」

 何だかんだと口しか動かない彼女を、従姉は上手いこと動かす。

 そして

「つ、疲れた……」
「これでやっと、新年ね!」

 磨き上げられた部屋を満足そうに見つめて、従姉は頷く。
 年飾りを、飾る。

「従姉様、私、もう無理……」

 彼女はお腹がすいたと、お腹をさする。

「今日の食事は、お餅が出ますからね」
「おお!」
「お餅」
「やったー!!」
「食べるの大好きね」
「もちろん!」

 また、よい一年になりますように。





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「戒院と『成院』」14

2020年01月07日 | T.B.2002年
病院からの帰り道、
『成院』は少し遠回りをして村の端に向かう。

人通りの少ないそこには
一族の墓地がある。

目的の場所に辿り着くまでに
並ぶ墓に刻まれた名前が
ぼんやりと目に入る。

宗主の息子。はとこだった。
医師の娘。彼女も病で命を落とした。
それから
いくつも、いくつも、
知っている名前や、
知らない名前を通り過ぎ、
1つの墓の前に。

自分の名前が刻まれた、
『戒院』の墓。
そこに戒院は居ない。居るのは。

「………ええ、と」

今までも、これからも、
きっと何かを決めるときは
ここに来るのだろう、と思う。

だから、今日も。

「俺は、先に進むよ」

『成院』は持っていた包みを
抱え直す。

中には2つの衣装が入っている。
一族の伝統の刺繍が縫い込まれて、
質の良い素材で作られている。

『成院』が看た患者は、
それを作る事を仕事としていた。

門出を祝う際に
身につける服。

恐らく、一生に一度きり。

「………」

うん、と頷き、
踵を返し家へと向かう。

彼女は喜んでくれるだろうか。
この衣装はきっと喜ぶだろうが、
自分への返事がどうだろうか。

今さら、やっぱりなんてことも。

「ああ、緊張する」

自宅の前で深呼吸。
柄でもない。

「………ただいま」

ドアを開くと中から返事が返ってくる。

「あら、おかえり成院。
 今日は早かったのね」
「仕事が早く済んで」
「良いことじゃない。
 少し働きすぎだもの」

お茶でも煎れましょうか、という彼女に
いつものやつを、と『成院』は答える。

「晴子、その前に」

「え、なにどうしたの?
 なにこれ、大きな荷物ね」

開けてみて、と良いながら
『成院』は扉を閉める。





東一族の村にて。

T.B.1999~2002
「戒院と『成院』」

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2020年始

2020年01月03日 | イラスト

2020年です。
今年もTOBAをよろしくお願いいたします。

今回のイラストテーマは、キョダ●マックス!

別館もマツバにて。





よかったのかなぁ、こんなイラストで(笑)


2020年も頑張ります!



ばしょ&ともえ






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