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「山一族と海一族」45

2018年04月06日 | T.B.1998年

 ヒロノとメグミは立ち止まる。

 それに合わせ、後ろに続く者も、動きを止める。

 すでに山一族の領域を超え、中間地点である場所。
 通常、不可侵である場所。

 近くから、滝の流れる音が聞こえる。
 うっそうと樹々が生い茂り、光を遮っている。
 薄暗い。
 降り続いた雨で足元はぬかるんでいる。

 ここにはすでに、道はない。

 その目の前に、

「海一族……」

 数名の海一族。
 向こうも同じように、思っているのだろう。

 この場所へ来るときは、
 普通、お互いに顔を隠して訪れる。

 が、

 今、すべての顔が見えている。

「……向こうの族長だ」

 ヒロノがメグミに目配せをする。

「あれが、」

 数人に取り囲まれるようにいる者。
 海一族の長。

「山一族ではないか」
「ここへは何をしに」

 海一族が声を出す。

「…………」
「…………」

 沈黙。

 しかし、

「いや……。このような場合ではないな」

 ヒロノは息を吐く。

「やはり、あなた方もここに何かがあると、来たわけですね」

 ヒロノの言葉に、海一族は顔を見合わせる。
 そして、頷く。

 緊急事態。

 生け贄のこと。
 お互いの一族で起きたこと。

 判ってはいる、が

 簡単に、手を取り合うことが出来ない。
 山一族も海一族も、武器に手をかけた状態。

 そちらが先に動く、か。

「ナオト、待って!」

 動こうとしたミヤを、メグミが制止する。

「ねえ……。これは?」

 メグミは足元を指差す。
 淡い光。

「気付いたか。見ろ」

 若い海一族も、その先を指差す。

「この光が向こうまで伸びている」
「これは、」

 ヒロノが云う。

「かなり巨大な魔法陣……」

「危険だ」
「だな」

 その海一族がひとり、魔法陣に沿うように動く。
 ヒロノも合わせる。

 お互いで確認するように。

「山は紋章術を使うと聞いた」
「ああ」
「判るか」

 ヒロノは、その魔法陣を見たまま答える。

「複数の力を持つものだな、これは」
「複数の力?」
「おそらく、侵入者を警戒するものと、」

「それと?」

 ヒロノは息をのむ。

「人の命を吸収するもの……」

「何?」

 ヒロノの言葉に、両一族がどよめく。



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