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「海一族と山一族」41

2018年04月03日 | T.B.1998年

海一族の長、その守護を務める者。
一族内で重要な役について居る者。
長、司祭の候補とされる者。

辺りを警戒しながら
彼らは進む。

「これが、立ち入りを許される
 ぎりぎりの範囲だな」

長の警護をしているミツグが呟く。

本来ならば、ここにミツグは入れない。
長と儀式を行う者、
本当に限られた者しか入ることを許されない
儀式の中心地。

中間地帯。

さらに、その奥。

緊急事態。
潜んでいる裏一族と
いつ戦闘になってもおかしくない状況。

だから、今回は同行を許された。

「ねぇ、気付いている?」

同じく長の警護をしているコヅエが言う。

「ああ」

本来ここに居るべき人物が
1人欠けている。

長候補のトーマではない。
もう1人。

先に駆けつけているのか、
それとも、
裏の手の者にやられたのか、

あるいは。

「………!?」

人の気配を感じて
ミツグは長の前に出る。

鬱そうとした森の中、
薄暗いその空間に。

「山一族……」

普段なら相見える事すらない、
隣り合う一族。

「…………なぜ、ここに」
「…………あれはあちらの族長か?」

互いに顔を隠し集っていた時とは違う。
日中に顔を出し、
こうやって会うのはどれ程ぶりだろうか。

「どうやら、
 火の手を逃れてきた訳では無いようだな」

海一族の長が一族の者を
落ち着かせるように言う。

聞こえていたのか、
山一族の青年が一歩踏み出し問いかける。

「あなた方も
 ここに何かあると、来た訳ですね」

彼らも何かを知っている。
あるいは、何かがあって、ここに来た。

もしや、山一族の村で起きた火事にも
関係のある事。

何か恐ろしい事態が起きている。

分かってはいるが、
互いに不可侵を決めている者同士、
急に手を取り合うことは出来ない。

「「………」」

どこまで、相手を信じたものか。
それぞれが武器を手に掛け
相手がどう動くかを見計らい兼ねている。

1人の山一族が、す、と足を踏み出す。

来る、と海一族の面々も構えを取る。

「待って!!」

その山一族を、また別の1人が止める。

「ねぇ、これは?」

指差したのは、足元の淡い光。
広がる魔方陣。

「……気付いたか」

内心、安堵のため息をつきながら
ミツグは光の先を指差す。
今は、一族間で争っている場合ではない。

「この光は向こうまで伸びている」

先程最初に声を掛けてきた山一族が前に出る。

「かなり巨大な魔方陣」

何だこれは、と言わんばかりに
陣を見つめる。
どうやら、その道に詳しい者のようだ。

誘導するミツグに続き
線を辿る。

「危険だ」
「だな」

魔方陣に関しては
海一族は専門外だ。

「山は紋章術を使うと聞いたが」
「ああ」
「分かるか」

「…………」

陣から目を逸らさずに、
山一族が答える。

「複数の力を持つものだな、これは」
「複数の力?」

「おそらく、侵入者を警戒するものと、」

「それと?」

山一族の声が沈む。
これは、と言い淀みながら答える。

「人の命を吸収するもの……」


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