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「山一族と海一族」42

2018年03月16日 | T.B.1998年

「彼女?」

 それは、
 カオリのことでも、マユリのことでもない。

「誰のことだ」

 呟いたトーマに、アキラが云う。

「おそらく、あれのことだ」

 司祭は、台座に横たわるものを見る。
 人だったもの、を。

「まさか」
「それを、生き返らせようとしているのか?」

 司祭は答えるように、それに触れる。

「なぜ、そのようなことを」

「簡単なことではないか」

 大切な人だったのだ、と。

 だが、

「人を生き返らせるには、何人もの命を犠牲にする、と」
 トーマが云う。
「そう教えてくれたのは司祭様だ」

 しかも、成功するかどうかは、判らない。

「とても、理にかなったことでは」
「彼女が生き返るかどうか、……ただ、それだけだ」

 弓を持ったまま、アキラは云う。

「本人が生きかえることを望んでいるかは判らない」
「いや、望んでいる」
 司祭が云う。
「彼女の死は理不尽だった。そこの娘たちと同じように」

「同じなわけがあるか」

 いいや同じだ、と、海一族の司祭は語尾を強める。

「何が同じだ」
「この、彼女こそが前回の生け贄だからだ!」

 司祭の声に洞窟が静まりかえる。

 前回の生け贄。

 アキラとトーマは顔を見合わせる。

 生け贄は、
 山一族と海一族で、交互に出される。 

 今回は、山一族から出される、とすれば
 前回は海一族からの生け贄と云うのは、当然のこと。

 けれども、

 十数年前の話だ。

「望んでいない死だった。彼女は生き返りたいのだ」
「ならば」

 なおさら、なぜなのか。

 生け贄の儀式は裏一族によって仕組まれたこと。

 それを知っているならば、裏一族を恨むだろう。
 裏一族に寝返るわけがない。

 司祭は答える。

「私は裏一族を、海一族を憎んだよ。よくも彼女を!! と」

 だが、と
 海一族の司祭が云う。

「裏一族は、彼女を生き返らせてあげよう、と云ったのだ」

 裏一族を憎んでも、倒しても、彼女は戻ってこない。

 しかし

「裏一族に来れば、その術のすべてを教えると」
「……司祭、様」

「彼女を生け贄とした海一族よりも、ずいぶん親切じゃないか」
 


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