「彼女?」
それは、
カオリのことでも、マユリのことでもない。
「誰のことだ」
呟いたトーマに、アキラが云う。
「おそらく、あれのことだ」
司祭は、台座に横たわるものを見る。
人だったもの、を。
「まさか」
「それを、生き返らせようとしているのか?」
司祭は答えるように、それに触れる。
「なぜ、そのようなことを」
「簡単なことではないか」
大切な人だったのだ、と。
だが、
「人を生き返らせるには、何人もの命を犠牲にする、と」
トーマが云う。
「そう教えてくれたのは司祭様だ」
しかも、成功するかどうかは、判らない。
「とても、理にかなったことでは」
「彼女が生き返るかどうか、……ただ、それだけだ」
弓を持ったまま、アキラは云う。
「本人が生きかえることを望んでいるかは判らない」
「いや、望んでいる」
司祭が云う。
「彼女の死は理不尽だった。そこの娘たちと同じように」
「同じなわけがあるか」
いいや同じだ、と、海一族の司祭は語尾を強める。
「何が同じだ」
「この、彼女こそが前回の生け贄だからだ!」
司祭の声に洞窟が静まりかえる。
前回の生け贄。
アキラとトーマは顔を見合わせる。
生け贄は、
山一族と海一族で、交互に出される。
今回は、山一族から出される、とすれば
前回は海一族からの生け贄と云うのは、当然のこと。
けれども、
十数年前の話だ。
「望んでいない死だった。彼女は生き返りたいのだ」
「ならば」
なおさら、なぜなのか。
生け贄の儀式は裏一族によって仕組まれたこと。
それを知っているならば、裏一族を恨むだろう。
裏一族に寝返るわけがない。
司祭は答える。
「私は裏一族を、海一族を憎んだよ。よくも彼女を!! と」
だが、と
海一族の司祭が云う。
「裏一族は、彼女を生き返らせてあげよう、と云ったのだ」
裏一族を憎んでも、倒しても、彼女は戻ってこない。
しかし
「裏一族に来れば、その術のすべてを教えると」
「……司祭、様」
「彼女を生け贄とした海一族よりも、ずいぶん親切じゃないか」
NEXT