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「海一族と山一族」37

2018年03月06日 | T.B.1998年

「彼女?」

それは、カオリでもマユリでもない。

誰の事だ、と
訝しがるトーマに、
アキラは言う。

「トーマ。
 恐らく、あれの事だ」

司祭は肯定するように
台座に横たわっている
人だったものを見つめる。

「あなたは、それを
 生き返らせようとしているのか?」

大切な人だったのだろうと
その触れ方で分かる。

だが、

「司祭様、
 この術は何人もの命を犠牲にする。
 そう、教えてくれたのはあなただ」

しかも、成功するかどうかは分からない。

「とても、理にかなった事では」

「そんな事は問題ではない。
 彼女が生き返るかどうか、
 ………ただ、それだけだ」

アキラが言う。

「本人がそう望んでいるかは分からないぞ」
「いや、望む。
 彼女の死は理不尽だった。
 そこの娘達と同じ様に」

「同じな訳があるか」

いいや、同じだと、
海一族の司祭は語尾を強める。

「なぜなら
 彼女こそが前回の生贄だからだ」

洞窟が静まりかえる。
前回の生け贄?
確かに聞いた事がある。

生け贄は海と山から交互に出される。

今回が山一族からなら、
前回は。

「ならば」

どうして、と
トーマは問う。

生け贄の儀式は裏一族によって仕組まれたこと。

それを知っているならば
裏一族を恨みこそすれ
裏一族に寝返る訳がない。

「私も最初は裏一族を憎んだよ。
 よくも!!よくも彼女を!!と」

だが、と
海一族の司祭は言う。

「ならば、彼女を生き返らせたらどうだ、と。
 やつは言ったのだ」

裏一族を倒した所で
彼女は戻ってこない。

「裏一族を憎むのもよい。
 しかし、こちらに来れば、
 その術のすべてを教えると」
「……司祭、様」
「言い伝えだと信じて、
 躊躇いなく彼女を差し出した海一族よりも
 ずいぶん親切だろう、と」
 

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