TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」37

2018年02月09日 | T.B.1998年

「鳥が!」

 メグミは空を見る。

 アキラの鳥が、空中で旋回している。
 山一族の村から上がる煙に、驚いているのか。

「こっちよ! おいで!」

 メグミの声に気付き、鳥が下りてくる。

「どうしたの?」

 メグミは鳥の様子を見る。

 鳥を、狩りの共にする一族とはいえ、
 水辺の向こうの一族のように、鳥と話すことは出来ない。

「…………?」

 メグミは、羽根に付いた砂に気付く。

「海の砂?」

 つまり

 この鳥は海にいたと云うこと。

「海一族に、カオリが……?」

 メグミは再度、鳥を見る。

「アキラは海一族の村にいるのね?」

「メグミ!」

 消火を終えたヒロノがやってくる。
 
 山一族の村を襲う火事は、やっとのことで収まった。
 けれども、まだ、火のあった場所から煙が昇っている。
 そして
 焼け焦げたにおい。

「みんな無事か」
「ええ」

 メグミが云う。

「お互いに確認させた限りでは、みな家系はいると云っているわ」
「そうか」
「でも、」

 メグミは首を振る。

「誰かがいた」
「誰か?」
「判らないの」

 ヒロノは目を細める。

「意味が判らない」

 ヒロノが云う。

「誰なんだ。部外者か?」
「格好は山一族だった」
「何?」
「でも、知らない顔」
「つまり?」
「そう」

 メグミは頷く。

「諜報員、か」

 ヒロノは息を吐く。

「そもそも、諜報員ならばれないように動くだろう」
「そうね」
「なぜ、うちの一族をかき乱す」
「だから判らないのよ」

 ヒロノは持っている杖を鳴らす。

「村を覆う結界も、かいくぐったと云うことか」
「相当な実力者ね」

 メグミは、腕に止まる鳥を見せる。

「それと、もうひとつ報告」
「何?」

 メグミは云う。

「生け贄に関すること」



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「海一族と山一族」33

2018年02月06日 | T.B.1998年


「カオリ!!」

トーマは
カオリをそっと抱き上げる。

「おい!?
 しっかりしろ!!」

声を掛ける。
呼吸はあるが、カオリの反応は無い。

「何か、飲まされているのか?」

「トーマ」

アキラも駆け寄る。

「そちらも上手くいったようだな」
「あぁ。
 カオリは無事か!?」

心配そうに覗き込むアキラに
カオリを渡す。

「息はあるんだが。
 早く村に降りて医者に診せた方が」

顔を上げたトーマは
辺りの景色を見回し、驚愕する。

「魔方陣が消えていない!?」

儀式のために動いている陣が
まだ淡く光り続けている。

「裏一族は倒したんだが」
「なぜだ、まだ他に居るのか?」

いや、とアキラが言う。

「術者が倒れても
 止まらない類の魔法かもしれない」
「まさか、カオリが目覚めないのも?」
「あるいは、そうかもしれない」

「何にせよ、
 早くここを離れよう。
 カオリも魔方陣の外に出れば」
「そうだな」

アキラの後に続こうとしたトーマは
ふと、立ち止まる。

「トーマ?」

「アキラはカオリを連れて
 先に戻っていてくれ」
「なんだって?」

「俺は、この魔方陣の中心に行ってみる」

陣は中心に近づくほど精密な模様になって居る。
恐らくそれは、
流れる滝の裏側に向かっている。

禁忌の魔法。

死んだ誰かを生き返らせるのか、
不老不死を願うのか、
それとも、
夢物語の様なとうてい不可能な何か。

「そこに、
 裏一族の目的があるはずだ」
「………」
「いや、一緒に行こう。
 カオリに掛けられた術も知りたい」

滝の近くの岩場から
僅かな足場を辿り2人は進む。

「こんな所があったなんて。
 まるで隠し道じゃないか」
「実際そうなんだろう」

滝の裏側は洞窟のようになって居る。

「灯りを」
「待て」

木の枝を拾い
松明にしようとしているトーマを
アキラが制する。

「奥に灯りが見える」


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「山一族と海一族」36

2018年02月02日 | T.B.1998年

「カオリ!!」

 トーマの声。
 アキラは振り返る。

 トーマがカオリのもとにいる。

「おい!? しっかりしろ!!」

 トーマが声をかけている。
 けれども、カオリの反応はない。

「何か飲まされているのか?」

 アキラもそこへと駆け寄る。

「トーマ」
「アキラ……、そちらは上手くいったようだな」
「ああ。カオリは無事か?」

 トーマが抱き上げたカオリに、アキラは触れる。
 呼吸はあるが、意識はない。

「息はある」

 トーマが云う。

「早く村に戻って、医者に診せた方が」

 ふと、

 トーマが顔を上げる。

 アキラも見る。

 ほのかな光。

「……陣が消えていない!?」

 地面に描かれた、紋章術の陣。
 それが、淡く光り続けている。

 つまり、儀式がまだ、続いていると云うこと。

「裏一族は倒したんだが、」
「なぜだ? まだほかにいるのか?」
「いや、」

 アキラは目を細める。

「術者が倒れても、止まらないのかもしれない」
「まさか、カオリが目覚めないのも?」

 トーマの言葉にアキラは頷く。

「何にせよ、早くここを離れよう」
 アキラが云う。
「カオリも陣の外に出れば意識が戻るかもしれない」
「そうだな」

 アキラはカオリを抱え、歩き出す。

 が、

 立ち止まったトーマに気付き、振り返る。

「どうした?」

「…………」

「トーマ?」

「……アキラはカオリを連れて、先に戻っていてくれ」
「何?」
「俺は、この陣の中心に行ってみる」

 トーマの視線を、アキラは追う。

 陣は、中心に近付くほど、精密な模様を描いている。
 その中心は、
 流れる滝の方へと向かっている。

 滝の裏側へ。

「あそこに、」
「裏一族の目的が……」

 ふたりは同じ方向を見る。

「儀式とは本当に、」

 人の命を使うものなのか。

 その命と引き換えに、死んだ者を呼び戻すのか。
 それとも、不老不死を望むのか。

 ――禁忌の魔法。

「アキラ」

「いや、一緒に行こう」

 アキラが云う。
 
「カオリにかけられた術も知りたい」

 ふたりは頷く。

 滝の裏へと向かって、歩き出す。



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