TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」39

2018年02月23日 | T.B.1998年

 ふたりは滝へと近付く。

 激しく落ちる、水の音。

 滝の裏側へと入る。

「ここは、」
「このようになっていたとは」

 滝の裏側は、洞窟になっている。

「まるで隠し道だな」
「実際そうなんだろう」

 ふたりは、辺りを見る。

 道は、まだ、そこから先へと続いている。
 足元の魔法陣も、まだ伸びている。

「灯りを、」
「いや、待て」

 木の枝を拾い、松明にしようとしたトーマを
 アキラは止める。

 指を差す。

「奥に灯りが」
「何」

 トーマもその先を見る。

 ほのかな、灯り。

「…………」
「いるな」
「ああ」

 何かの、気配。
 誰かが、いる。

 アキラは再度、辺りを見る。

 どこか、カオリを隠せる場所を探す。
 この状態のカオリを連れたままでは、こちらの身が危うい。

 この先に、誰が
 何人いるのか、見当もつかない。

「カオリを置いていく」
「大丈夫か?」

 もちろん、意識のないカオリは、何ひとつ身を守れない。
 けれども、
 それしか方法はない。

 アキラは、木の陰に、カオリを坐らせる。
 ちょうど、身体が隠れる。

「大丈夫か……」

 再度呟いたトーマに、アキラは云う。

「ここに、紋章術をかけていく」
「魔法を?」
「音やにおい、気配を隠す紋章術だ」
「そんなものが」
「ああ」

 アキラは頷き、紋章術を描く。

「そんなに複雑なものではないんだが……」
「とりあえずは安心だな」

 アキラの紋章術を見て、トーマが歩き出す。

 アキラは、カオリを見る。

 そう。
 とりあえずは、大丈夫なはず。
 ただ、問題があるとすれば
 あくまでもこの地は、相手の紋章術の中であると云うこと。

 カオリが見つからないことに、かけるしかない。

 アキラも、トーマに続く。

 ふたりは歩く。

 やがて、洞窟の突き当りにたどり着く。

 そこに、大きな石がある。
 それは先ほど、カオリが横たわっていたものと、同じもの。

 その両脇の壁にかすかな松明が燃えている。

 わずかな灯りの中に、

「……司祭、様?」

 トーマが声を出す。
 アキラはトーマを見る。

「司祭様が、なぜここに?」

 海一族が、そこにいる。



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