TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」19

2017年01月13日 | T.B.1998年

 アキラは、海一族を見る。

 山一族とは違う、出で立ち。

 顔つきも、
 肌の色も、
 着ているものも。

 そして、

 腰には短刀。

「なぜ、海一族の村に?」

 海一族の彼が訊いてくる。

 アキラは答えない。

 早くここから動かねば。
 時間がない。

 時が経てば、海一族が集まるはずだ。
 山に帰れなくなる。

 アキラは、矢に手を伸ばす。

 と、

「探しに、来たのか」

 彼が云う。

「仲間の山一族を、探しに来たのか?」
「……何」

 アキラは手を止める。

「カオリを、知っているのか」

 海一族は頷く。

 間違いなかった。

 カオリは、やはり、この海一族の村に来ていたのだ。
 なら、
 今はどこで、どんな扱いを受けているのだろう。

 アキラは口を開こうとする。

 が

「おい、どうした!?」

 遠くから、ほかの海一族の声。
 明かりが近付いてくる。

 アキラは、再度、弓を持つ。
 ひとりだけならともかく、大勢を相手にすることは出来ない。

 目の前の海一族は、カオリを知っている。

 けれども、今はまくしかない。

「…………っ!?」

 突然、海一族が手を引く。
 アキラは、茂みに倒れる。

「お前っ!」
「静かにしろ!」

 彼は、ひとり、道に戻る。

 アキラは身体を起こし、陰から様子を見る。

「どうしたんだ?」
「大丈夫、何でもない」
「そう、か?」
「すぐに追いつく。先に行っていてくれないか」

 彼がそう云うと、
 ほかの海一族は首を傾げながらも、この場をあとにする。

 足音が消え、

 あたりは静かになる。

「どう云う、つもりだ」

 戻って来た彼に、アキラは云う。

「お前、海一族なのだろう」
「カオリ、と云ったな」

 海一族は、アキラが告げた名を繰り返す。

「俺は、山一族のカオリを知っている」
「カオリはどこだ」

 アキラは立ち上がる。

 彼が云う。

「おい、武器はなしだぞ」

 彼は手を広げて見せる。
 自分も武器は持たない、と云う意味なのか。

 けれども、

 お互い初対面の身。

 しかも、

 敵対する一族同士。

 どこまで信用してよいのか。
 おそらく、相手もそう思っているはず。

 それでも、

 アキラも手を広げて見せる。

「カオリはどこだ」



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「海一族と山一族」15

2017年01月10日 | T.B.1998年
日がまだ昇らない時間、
トーマはベッドから起き出す。

ベッドと言っても、
寝室はカオリに貸しているため
リビングのソファーが寝床になっている。

音は響かないだろうが
静かに身支度を整える。

朝の漁は早い。
外はまだ灯りが必要になる。

小さな灯りを手に、
港へ向かう。

暗闇の中、歩きながら
考えをまとめる。

カオリは、今回の異変のための生け贄。

ただの迷い込んだ村人とは違う。

予想していた以上に、
早く村へ返さなくてはいけない。

生け贄には何も問題が無いと言った山一族。
それは
きっと代わりの生け贄が準備されたと言う事。

自分の代わりに誰かが犠牲になることを
カオリは良しとしないだろう。

生け贄になるために、村へ帰る。

死ぬために。

今回は山一族が生け贄を出す番。
トーマが知っている人は
誰も犠牲にならない。

そう思っていたからこそ
今まで冷静にこの儀式の事を聞くことが出来た。

けれど。

「トーマ」

道の合流地点で
いくつかの灯りが揺れている。

ミナト達や今日同じく漁に出る数人が
すでに集まっている。

海一族では、生け贄、という儀式について
儀式に関わる者だけにしか知らされない。

いつもの自分でいなくては。

トーマは首を振り、
彼らに歩み寄る。

「あれ?」

港へ向かう道の途中、
一人が声を上げる。

「どうした?」

道沿いの山を覗き込む。

「いや、なにか居たような」
「誰だ!誰か居るのか!?」

数人が草むらに近寄る。

が、そこには誰も居ない。

「何か動いたような気がしたのだけど」
「気のせいじゃないのか」
「猫でも見間違えたんじゃないか
 しっかりしてくれよ」

なんだ、と
一瞬固まった空気が
また緩み出す。

「さぁ、急いで
 日が昇る前に」

僅かに辺りが明るくなる。

夜明けは近い。

皆がその場を離れていく、
トーマは少し後ろに下がり
灯りを消す。

トーマも感じていた。

誰か、居る。

ミナト達は雑談に夢中で
トーマが付いてきて居ないことには
気付いていない。

彼らとの距離が広まっていく。

トーマはその場を動かない。

「………」

物陰が、僅かに動く。

「隠れているつもりか!!」

トーマは灯りを灯し
彼を照らし出す。

「……誰だ、お前」

彼は、背を向けたまま
顔をトーマに向ける。

日焼けしている海一族とは違う
白い色の肌。

「お前」

見慣れない衣装。
だが、
つい最近似た物を見ている。

カオリと同じ、その服。

「まさか、山一族、か」


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「山一族と海一族」18

2017年01月06日 | T.B.1998年

 朝日も昇らない時間。
 アキラは山を下りる。

 このことは、誰にも云っていない。

 山一族の族長にも。
 メグミやナオトにも。

 山を下りることは、けして、決まりを破ることではない。
 外へ出ることは自由なのだから。

 けれども、

 アキラが向かう方向。

 それが問題だと、自身も判っている。

 旧い獣道を歩き
 このまま下れば

 山一族と相容れない一族
 海一族の村へとたどり着くから。

 海一族とは長く交流は行っていない。

 山の、うっそうとした木々や伸びきった草が、それを物語る。
 自然の防壁。

 アキラは誰にも会わず、山を下る。

 海一族なら困難であろう道も、山一族の彼は、難なく進む。

 しばらくして、アキラは茂みに身をひそめる。

 音。

 アキラは息をひそめる。

 すぐ近くを、彼より大きな生き物が動く。
 朝の餌場を求めての移動。

 アキラは手に弓矢を持ったまま、動かない。

 空を見る。

 あたりが少し、明るくなっている。

 と

 すぐ近くの木に、一羽の鳥が止まっている。

「…………」

 アキラは目を細める。

 鳥は、アキラを見ている。
 ように、見える。

「お前、このあたりの鳥じゃないな」

 生き物の気配が離れていく。
 アキラは立ち上がる。

 再度、木を見る。
 そこに、鳥はいない。

 アキラは歩き出す。

 また、どれくらい歩いただろう。

 小さな明かりに、アキラは気付く。

 いくつかの明かりが揺れる。

 人工的な明かり。
 海一族の村の明かり。

 アキラはあたりを見る。

 早朝なら、人の動きは少ないはず。

 いや、

 自身の一族と同じ、
 海で狩りをする一族なのだから、朝も早いのだろうか。

 アキラは遠目で、様子を伺う。

「誰だ!」

 突然の声。

 数人の足音。

「何だ?」
「いや、今、何かが動いたような」
「気のせいだろう」

 集まった海一族は、そこに、何もないのを確認する。
 首を傾げながら、元の場所へと戻っていく。

 アキラは、物陰から出る。

 誰もいない、

「おい。隠れているつもりか」

 後ろから、声。

「誰だ、お前は」

 アキラは動かない。
 顔だけ振り向く。

 そこに、……海一族。

 彼は、手に小さな明かりを持っている。
 その明かりがゆらゆらと揺れる。

「お前まさか、山一族、か?」



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2017年始

2017年01月03日 | イラスト


みなさま明けましておめでとうございます
2017年、今年も1年TOBAブログ(本館&別館)を
よろしくお願いします。

今年は年始を担当する ばしょ ですが

本館で連載予定の作品に併せて
広司君が主役の作品をこちらの別館にて
掲載する事、が
2017年の目標です。

間に合うと良いな~。

(でもイラストは広司君でない)


どうぞ今年も
TOBAブログ別館へお越しくださいませ。


TOBA by ともえ&ばしょ
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