TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」18

2017年01月06日 | T.B.1998年

 朝日も昇らない時間。
 アキラは山を下りる。

 このことは、誰にも云っていない。

 山一族の族長にも。
 メグミやナオトにも。

 山を下りることは、けして、決まりを破ることではない。
 外へ出ることは自由なのだから。

 けれども、

 アキラが向かう方向。

 それが問題だと、自身も判っている。

 旧い獣道を歩き
 このまま下れば

 山一族と相容れない一族
 海一族の村へとたどり着くから。

 海一族とは長く交流は行っていない。

 山の、うっそうとした木々や伸びきった草が、それを物語る。
 自然の防壁。

 アキラは誰にも会わず、山を下る。

 海一族なら困難であろう道も、山一族の彼は、難なく進む。

 しばらくして、アキラは茂みに身をひそめる。

 音。

 アキラは息をひそめる。

 すぐ近くを、彼より大きな生き物が動く。
 朝の餌場を求めての移動。

 アキラは手に弓矢を持ったまま、動かない。

 空を見る。

 あたりが少し、明るくなっている。

 と

 すぐ近くの木に、一羽の鳥が止まっている。

「…………」

 アキラは目を細める。

 鳥は、アキラを見ている。
 ように、見える。

「お前、このあたりの鳥じゃないな」

 生き物の気配が離れていく。
 アキラは立ち上がる。

 再度、木を見る。
 そこに、鳥はいない。

 アキラは歩き出す。

 また、どれくらい歩いただろう。

 小さな明かりに、アキラは気付く。

 いくつかの明かりが揺れる。

 人工的な明かり。
 海一族の村の明かり。

 アキラはあたりを見る。

 早朝なら、人の動きは少ないはず。

 いや、

 自身の一族と同じ、
 海で狩りをする一族なのだから、朝も早いのだろうか。

 アキラは遠目で、様子を伺う。

「誰だ!」

 突然の声。

 数人の足音。

「何だ?」
「いや、今、何かが動いたような」
「気のせいだろう」

 集まった海一族は、そこに、何もないのを確認する。
 首を傾げながら、元の場所へと戻っていく。

 アキラは、物陰から出る。

 誰もいない、

「おい。隠れているつもりか」

 後ろから、声。

「誰だ、お前は」

 アキラは動かない。
 顔だけ振り向く。

 そこに、……海一族。

 彼は、手に小さな明かりを持っている。
 その明かりがゆらゆらと揺れる。

「お前まさか、山一族、か?」



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