朝日も昇らない時間。
アキラは山を下りる。
このことは、誰にも云っていない。
山一族の族長にも。
メグミやナオトにも。
山を下りることは、けして、決まりを破ることではない。
外へ出ることは自由なのだから。
けれども、
アキラが向かう方向。
それが問題だと、自身も判っている。
旧い獣道を歩き
このまま下れば
山一族と相容れない一族
海一族の村へとたどり着くから。
海一族とは長く交流は行っていない。
山の、うっそうとした木々や伸びきった草が、それを物語る。
自然の防壁。
アキラは誰にも会わず、山を下る。
海一族なら困難であろう道も、山一族の彼は、難なく進む。
しばらくして、アキラは茂みに身をひそめる。
音。
アキラは息をひそめる。
すぐ近くを、彼より大きな生き物が動く。
朝の餌場を求めての移動。
アキラは手に弓矢を持ったまま、動かない。
空を見る。
あたりが少し、明るくなっている。
と
すぐ近くの木に、一羽の鳥が止まっている。
「…………」
アキラは目を細める。
鳥は、アキラを見ている。
ように、見える。
「お前、このあたりの鳥じゃないな」
生き物の気配が離れていく。
アキラは立ち上がる。
再度、木を見る。
そこに、鳥はいない。
アキラは歩き出す。
また、どれくらい歩いただろう。
小さな明かりに、アキラは気付く。
いくつかの明かりが揺れる。
人工的な明かり。
海一族の村の明かり。
アキラはあたりを見る。
早朝なら、人の動きは少ないはず。
いや、
自身の一族と同じ、
海で狩りをする一族なのだから、朝も早いのだろうか。
アキラは遠目で、様子を伺う。
「誰だ!」
突然の声。
数人の足音。
「何だ?」
「いや、今、何かが動いたような」
「気のせいだろう」
集まった海一族は、そこに、何もないのを確認する。
首を傾げながら、元の場所へと戻っていく。
アキラは、物陰から出る。
誰もいない、
「おい。隠れているつもりか」
後ろから、声。
「誰だ、お前は」
アキラは動かない。
顔だけ振り向く。
そこに、……海一族。
彼は、手に小さな明かりを持っている。
その明かりがゆらゆらと揺れる。
「お前まさか、山一族、か?」
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