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「海一族と山一族」16

2017年01月17日 | T.B.1998年
トーマの呼びかけに、
彼は、こちらへ向き直る。

山一族の金色の目が
灯りに照らされている。

歳は若い。
自分とそう変わらない年頃だろう。
そして、背には弓矢。

トーマは、腰のナイフに手をかける。

「なぜ、海一族の村に」

そんなトーマの様子に気付いたのか、
彼も、その場で構えを取る。

そもそも、
海一族と山一族には
お互いの領土には立ち入らないという
暗黙の了解が出来ている。

「………」

他に人の気配はない。

今はトーマだけだが
ミナト達がすぐに引き返して来るだろう。

いくら実力があっても
一人で数人を相手には出来ないはず。

そうまでして、
決まりを破ってまで海一族に来る理由。

トーマには1つしか思い浮かばない。

「探しに、来たのか」

思わず呟いた言葉に
山一族は反応する。

「カオリを、知っているのか」

確信する。
山一族の村から消えたカオリを
探しに来た。

予想はしていたはずだ。

カオリが生け贄であるのならば、
いつか、誰かが迎えに来る事。


どうしよう


トーマにそんな思いがよぎる。

カオリは山一族の村へ返さなくてはいけない。
迎えが来たのならば、ちょうど良い。

今、ならば
誰にも知られないうちに、
何も起こらなかったように、
カオリを返すことが出来る。

それでも、
トーマの中では何も結論が出ていない。
カオリとも何も話せていない。

「おーい、トーマ?」

遠くから灯りが近づいてくる。
ミナト達が戻ってきた。
トーマの不在に気付いたのだろう。

山一族は矢に手を掛けようとする。

「……っ!!」

トーマは山一族の手を引き、
草むらに押し倒す。

「お前っ!!」
「静かに!!」

トーマは一人、道に戻る。

「トーマ、どうした」

ミナトが駆け寄る。

「大丈夫、なんでもない」

背を草むらに向けた状態。
無防備にも程があるなと
そう思いながら、トーマは話を続ける。

「忘れ物をしたようだ。
 すぐに追いつくから
 先に行っていてくれないか」
「そうか?」

首を捻りながらもミナトはその場を後にする。

「分かった。
 早く戻れよ」

彼らの姿は遠ざかっていく。

これで、良かったのだろうか。

「どう言うつもりだ」

そこには、山一族の青年とトーマが残される。


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