TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」15

2017年01月10日 | T.B.1998年
日がまだ昇らない時間、
トーマはベッドから起き出す。

ベッドと言っても、
寝室はカオリに貸しているため
リビングのソファーが寝床になっている。

音は響かないだろうが
静かに身支度を整える。

朝の漁は早い。
外はまだ灯りが必要になる。

小さな灯りを手に、
港へ向かう。

暗闇の中、歩きながら
考えをまとめる。

カオリは、今回の異変のための生け贄。

ただの迷い込んだ村人とは違う。

予想していた以上に、
早く村へ返さなくてはいけない。

生け贄には何も問題が無いと言った山一族。
それは
きっと代わりの生け贄が準備されたと言う事。

自分の代わりに誰かが犠牲になることを
カオリは良しとしないだろう。

生け贄になるために、村へ帰る。

死ぬために。

今回は山一族が生け贄を出す番。
トーマが知っている人は
誰も犠牲にならない。

そう思っていたからこそ
今まで冷静にこの儀式の事を聞くことが出来た。

けれど。

「トーマ」

道の合流地点で
いくつかの灯りが揺れている。

ミナト達や今日同じく漁に出る数人が
すでに集まっている。

海一族では、生け贄、という儀式について
儀式に関わる者だけにしか知らされない。

いつもの自分でいなくては。

トーマは首を振り、
彼らに歩み寄る。

「あれ?」

港へ向かう道の途中、
一人が声を上げる。

「どうした?」

道沿いの山を覗き込む。

「いや、なにか居たような」
「誰だ!誰か居るのか!?」

数人が草むらに近寄る。

が、そこには誰も居ない。

「何か動いたような気がしたのだけど」
「気のせいじゃないのか」
「猫でも見間違えたんじゃないか
 しっかりしてくれよ」

なんだ、と
一瞬固まった空気が
また緩み出す。

「さぁ、急いで
 日が昇る前に」

僅かに辺りが明るくなる。

夜明けは近い。

皆がその場を離れていく、
トーマは少し後ろに下がり
灯りを消す。

トーマも感じていた。

誰か、居る。

ミナト達は雑談に夢中で
トーマが付いてきて居ないことには
気付いていない。

彼らとの距離が広まっていく。

トーマはその場を動かない。

「………」

物陰が、僅かに動く。

「隠れているつもりか!!」

トーマは灯りを灯し
彼を照らし出す。

「……誰だ、お前」

彼は、背を向けたまま
顔をトーマに向ける。

日焼けしている海一族とは違う
白い色の肌。

「お前」

見慣れない衣装。
だが、
つい最近似た物を見ている。

カオリと同じ、その服。

「まさか、山一族、か」


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