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「海一族と山一族」19

2017年02月07日 | T.B.1998年
トーマはお茶を煮出しながら
これからどうするべきか、と考える。

自分に、
カオリを山に帰す決断が
出来るのだろうか。

カオリを救う
生け贄そのものを無くす手立てがあれば。

「大体、災いって何だ」

考えてみればおかしな所は
いくつもある。

一定の時期を経て
両一族に同時期に起きる異変。

それが、生け贄を差し出せば
本当に治まるのだろうか。

トーマは思い出す。
山から流れてきていた汚れた水。
死んだ動物。

もしも、
自然現象として起こる災害に
悪意を持つ誰かの手が加わっているのだとしたら。

「………」

アキラはどう考えているのだろう。

最初は、一触即発をしかねない雰囲気だったが
敵の一族に一人で乗り込んでくれば
そうもなるだろう。

少しの間しか接触していないが、
話せる相手だとトーマは思った。

煮出したお茶を容器に移す。
海一族に伝わるお茶。
カオリは好みの味だと言っていたが
アキラは気に入るだろうか。

「あ」

ふと、もう一つの問題を思い出す。

漁を抜け出してきていたのだった。
放って置いたらミナト達が心配して
家に尋ねてくると言う事も考えられる。

「体調不良とでも
 言っておけば良かったな」

どうしたものか、と
トーマは一人、庭に出る。

「ん?」

庭から目を凝らす。

沖に、舟が出ていない。

「海は荒れていないはずだが」

この時間には何隻も漁を行っているはず。
それが一隻も見当たらない。

そこへ、誰かがトーマの家へ駆けてくる。

「あぁ、トーマ
 今呼びに行こうかと思っていたんだ」
「……ミナト、どうしたんだ。
 舟がいない!?」

何かがおかしい。
トーマは言葉を選びながら問いかける。

ミナトが慌てた様子で言う。

「戻ってきたんだ。
 大変なんだよ、山が」
「……山」

アキラ達の事がばれたのだろうか、と
内心慌てるが、
そんな心情など分かるはずもなく
ミナトはトーマの腕を引く。

少し開けた場所。

トーマはミナトが指さす方を見る。
今までトーマが目を凝らしていた方とは真逆の場所。

「……」

トーマは息を呑む。

山頂の近く、山一族の村があるであろう場所から
煙が上がっている。

「山火事?」

今、災いが続くこのタイミングで
まるで意図したように。

「長が皆を集めている。
 トーマも呼ばれているから早く行け」

「……!!」

「おい、トーマ!!?」

トーマはミナトを振り切って駆け出す。
早くこの事を知らせないと。
家に向かって走り出す。


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