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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」3

2016年06月03日 | T.B.2019年

 浅く眠りについた誠治は、涼の声にはっとする。

「起きろ、誠治」

「――なん、」

「静かに」

 涼は、首を振る。
 正面を見ると、火が消えている。

 涼が、消したのだ。

「……何かいるのか」
「いる」
「何だ?」

「人がいる」

「人?」

 誠治は目を細める。
 あたりをうかがう。

 狩りにやってきた、別の西一族、か。

 いや

 ……違う。

「おそらく、向こうはひとりだ」
 涼が云う。
「でも、何か動物を連れている」
「たぶん、馬だな」
「まくか?」

「まこう」

 誠治が頷く。

 ふたりは、手早く荷物をまとめ、動く。
 身をひそめるように、茂みを歩く。

 足下は悪い。

 しばらく進み、誠治が振り返る。

「どうだ?」

「離れた」

「……そうか」
 誠治は大きく息を吐く。
「仕方ない、今回は下山だ」

 その言葉に、涼は、誠治を見る。

「獲物は獲らないのか」
「そう云う状況じゃない」

 誠治は再度、歩き出す。

 涼も続く。

「誠治は、さっきの人間が誰だか判るのか」
「判るさ」
 誠治は歩きながら云う。

「山一族だ」
「山……」

「何だ、お前知らないのか」

 誠治が云う。

「西と山とは、土地のことで争ってる」
「土地?」
「つまり、狩り場だよ」

 誠治が続ける。

「東と争ってた頃。……三世代前だな。不可侵条約が結ばれてる」
「なら、俺たちが、土地を越えたのか?」
「ばか云え!」
 誠治が声を上げる。
「最近は、その条約自体があいまいなんだよ!」
「つまり?」
「山一族のやつら、自分たちの場所だと、どんどん降りてきてるんだ」
 誠治は息を吐く。
「でも、下手に手は出せない」

 涼は頷く。

「報告か?」

「そうだな。とりあえず、村長に……」

 西一族の村が見えて、誠治は立ち止まる。

 その様子に、涼は首を傾げる。

「どうした?」
「……みんなに、笑われるな」
「何を?」
「何も獲ってきてないのか、て」
 誠治は息を吐き、頭を抱える。
「悔しい!」

 涼は、誠治を見る。

「鳥でも捕るか?」
 云うと、涼は空を見る。
 山のふもとで、鳥の群れが飛んでいる。

 低い。

 涼は、弓を構える。

「獲れるのかよ」
「無駄に獲りはしない」

「……お前」

 誠治は、目を細める。
 涼は、落ちた鳥を掴む。

「……三匹だけど」

 誠治は、黙ってそれを受け取る。



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