浅く眠りについた誠治は、涼の声にはっとする。
「起きろ、誠治」
「――なん、」
「静かに」
涼は、首を振る。
正面を見ると、火が消えている。
涼が、消したのだ。
「……何かいるのか」
「いる」
「何だ?」
「人がいる」
「人?」
誠治は目を細める。
あたりをうかがう。
狩りにやってきた、別の西一族、か。
いや
……違う。
「おそらく、向こうはひとりだ」
涼が云う。
「でも、何か動物を連れている」
「たぶん、馬だな」
「まくか?」
「まこう」
誠治が頷く。
ふたりは、手早く荷物をまとめ、動く。
身をひそめるように、茂みを歩く。
足下は悪い。
しばらく進み、誠治が振り返る。
「どうだ?」
「離れた」
「……そうか」
誠治は大きく息を吐く。
「仕方ない、今回は下山だ」
その言葉に、涼は、誠治を見る。
「獲物は獲らないのか」
「そう云う状況じゃない」
誠治は再度、歩き出す。
涼も続く。
「誠治は、さっきの人間が誰だか判るのか」
「判るさ」
誠治は歩きながら云う。
「山一族だ」
「山……」
「何だ、お前知らないのか」
誠治が云う。
「西と山とは、土地のことで争ってる」
「土地?」
「つまり、狩り場だよ」
誠治が続ける。
「東と争ってた頃。……三世代前だな。不可侵条約が結ばれてる」
「なら、俺たちが、土地を越えたのか?」
「ばか云え!」
誠治が声を上げる。
「最近は、その条約自体があいまいなんだよ!」
「つまり?」
「山一族のやつら、自分たちの場所だと、どんどん降りてきてるんだ」
誠治は息を吐く。
「でも、下手に手は出せない」
涼は頷く。
「報告か?」
「そうだな。とりあえず、村長に……」
西一族の村が見えて、誠治は立ち止まる。
その様子に、涼は首を傾げる。
「どうした?」
「……みんなに、笑われるな」
「何を?」
「何も獲ってきてないのか、て」
誠治は息を吐き、頭を抱える。
「悔しい!」
涼は、誠治を見る。
「鳥でも捕るか?」
云うと、涼は空を見る。
山のふもとで、鳥の群れが飛んでいる。
低い。
涼は、弓を構える。
「獲れるのかよ」
「無駄に獲りはしない」
「……お前」
誠治は、目を細める。
涼は、落ちた鳥を掴む。
「……三匹だけど」
誠治は、黙ってそれを受け取る。
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