TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と晴子」4

2016年06月21日 | T.B.2003年


別室で待たされていた水樹は
はっ、と目を覚ます。

外はもう明らみ始めている。

「あぁ。寝てたわ。
 姉ちゃん生まれた?」

水樹は兄の大樹に声を掛ける。

「まだだ、
 ちょっと辰樹を持ってろ」

大樹は自分の子供を水樹に渡す。
春先に生まれたばかりで
晴子の子が無事に生まれたら
同い年になるだろう。

水樹は甥っ子になる辰樹を抱え
あくびを噛み殺す。

「あぁ、俺も
 甥っ子が2人の叔父さんになるのか」
「姪っ子かもしれないぞ」

姪っ子、と繰り返して
水樹はうーん、と呟く。

「成先生、
 すっかりお医者さんだよなー」

「なんだ、まだ、先生って
 言ってるのか」

水樹が言う先生は
医師を意味する言葉ではない。

成院は今はでこそ医師見習いだが
武術の腕があり、水樹に武術を教えていた。

「成先生なら大将にだってなれたのに」

今ではすっかり
武術を止めてしまったことに
水樹は不満を漏らす。

「成院が選んだ道なんだから
 仕方ないだろう」

大樹にしてみれば
選んだというより
選ばざるをえなかったようにも思える。

成院の死んだ兄弟は
医師見習いだったから。

「ま、どっちでも良いけど」

実際、大樹にしてみれば
大切な妹を不安にさせなければ
どちらでも構わない。

「あ?父ちゃんは?」

水樹が辺りを見回すので
大樹は外を眺めながら答える。

「居ても立っても居られないから
 とりあえず、外をうろちょろしている」
「まじか」
「お前は、朝食を食べてこい。
 篤子が作ってるから」

へーい、と水樹は立ち上がり
甥っ子の辰樹を大樹に戻す。
ぐっすり寝ていて、全く起きない。

台所に向かおうとした水樹は
あれ、と
立ち止まり、兄と顔を見合わせる。

奥の部屋が騒がしい。

「お、」
「これって」

部屋から出てきた篤子に
大樹が問いかける。

「生まれた、のか」
「ええ、
 ちょっとお湯を汲みに行くから
 どいてちょうだい」

急いでるの、と
通り抜ける篤子に水樹が問いかける。

「義姉さん、どっち?」


「晴子、女の子だ」


部屋の中で、子供を抱えながら
成院が言う。

「そうね、元気な子だわ」

ふふ、と
晴子は笑う。

「成院、これからあなた父親なんだから
 泣いていないでしっかりしてね」


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