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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」5

2016年06月17日 | T.B.2019年

「戻ったの?」

 村長の自宅に着くと、村長の妻が出迎える。

「狩りはどうだった?」

 村長の妻の問いに、涼は首を振る。

「そうよねぇ。上手くいかないわよねぇ」
 息を吐き、村長の妻は手招きをする。
「ほら、入って」

 涼は、ここで暮らしている。
 もちろん、出入りは自由だ。

 涼は、村長を見る。

「入れ。話は中でだ」

「ところで、食事はしたの?」
「まだだ」
 村長が云う。
「お前もまだだろ?」
「まだ、だけど……。いらない」
「何を云うの!」
 村長の妻は、眉をひそめる。
「小柄なんだから、食べなさい!」

 村長の妻は、食事を運びはじめる。

 村長は、席に着く。
 涼も坐る。

「それで、お前への話なんだが、」

 村長は、咳払いをする。

「突然だが、お前には、この家を出てもらう」
「そうする」
「いや。そう云うことじゃない」

 涼の即答に、村長が焦る。

「東に行け、と云う話じゃない」
「なら?」
「結婚すると云う意味だ」

 そこで、涼は驚きの表情を見せる。

「結、」
「そう。結婚だ」
 村長が訊く。
「お前いくつだ?」
 涼は、首を振る。
「もう、適齢だろう」
 村長が云う。
「村の若者も、もう時期に入ってる」

「いや。俺はしない」

「だめだ」

「しない」

「村長命令だ」

「悟(さとる)!」

 涼は、村長を見る。

「俺の髪色を見ろ。そんなこと絶対に出来ない」
「何だ。相手が可哀相とか、思ってるのか」
「あんたは、俺の素性を知っているのに!」

「素性とかやめろ」

 村長が云う。

「お前は、何であろうと俺の息子だ」

 涼は、目を細める。

「親が、子の仕合わせを願って悪いのか?」
「その話は、聞きたくない」

 そこで、村長の妻が、最後の料理を運んでくる。

 村長の妻は、村長の横に坐る。

「何、あの話?」
 村長の妻が云う。
「断る理由なんかないでしょ、涼」
 さらに
「西は、恋愛婚か命令婚。どちらかなのよ。……ほら、食べなさい」

 村長の妻は、涼に皿を差し出す。

 涼は、受け取らない。

「必要なものは、うちで準備してやる」
「そうね」
 村長の妻が云う。
「お旧なら、私のを出してあげるわ」

 西一族には、
 嫁に、その家で使われていた装飾品を渡す風習がある。

「それ以外の結納品も出すでしょ?」
「もちろんだ」
「楽しみねぇ」

 村長の妻は、そう、笑う。



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