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「涼と誠治」6

2016年06月24日 | T.B.2019年

「だから、お前は何の心配もせず、」

 涼は立ち上がる。

「涼?」

 涼は、ふたりを見下ろす。

「俺には出来ない」
「……涼」
「もう、何度も云わない」

 涼は、部屋を出ようとする。

「ちなみに、だ」

 村長は、涼の後ろ姿に声をかける。

「相手の子、ちょっと足が悪くてな」
 村長が云う。
「狩りに行けない、役立たず扱いだ」

 涼は、振り返らない。

「ほかに取り柄もなくてな。……立場がない」
「…………」
「お前が、助けてやってくれ」

 涼は、答えない。

 そのまま、部屋を出る。

「…………」
「……ふーん」

 村長の妻は、料理をつまむ。

「あなた、涼を想うなら、もっといい子を用意したら?」
 村長の妻が云う。
「何で、役立たずの子なのよ」

「村長命令でも、あいつは黒髪だ。どの親も喜ばない」

「なら、その、役立たずの子の親は?」
「まあ、いろいろ条件付けて、頷かせてる」
「へえ」
「親も訳ありだからな」
「弱みをついたのね」
「云い方を考えろ」
「それは、ごめんなさい」

 村長の妻は、別の料理をつまむ。

 云う。

「ひどいわね」
「何が?」

「あの子は、これまで、いろんなものを抱えてきたのよ」
「……だろうな」
「なのに、まだ、抱えさせようとするのね」

 村長は何も云わない。

「口数は少ない子だけど、……あの子も判ってるわ」
 村長の妻が云う。
「相手の子が、自分に対しての人質になるってこと」

 村長は、小さく頷く。

「あいつを、逃がすわけにはいかない」
「はーん。」
 村長の妻は、村長を見る。
「そんなに、あの子を好きなのね。私の子より?」
「比べるな」

 村長が云う。

「響(ひびき)と涼は、比べられない」
「いいのよ。別に妬まないし」

「……あいつは、西の多くを知ってる」
「ええ」
「だからこそ、あの髪色を持って、東に裏切られたら……」

「あの子が、東と手を組むと?」

「ありえない話、じゃない」

「そうね」

 村長の妻が云う。

「恋愛婚じゃないんだもの。いつだって、置いて出て行っちゃうわ」

「そこか?」
「そうよ」
「男が嫁を置いていくか?」

 村長の妻は、ため息をつく。

「だったら、もっと、いい子を用意してあげたら?」



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