「戻ったの?」
村長の自宅に着くと、村長の妻が出迎える。
「狩りはどうだった?」
村長の妻の問いに、涼は首を振る。
「そうよねぇ。上手くいかないわよねぇ」
息を吐き、村長の妻は手招きをする。
「ほら、入って」
涼は、ここで暮らしている。
もちろん、出入りは自由だ。
涼は、村長を見る。
「入れ。話は中でだ」
「ところで、食事はしたの?」
「まだだ」
村長が云う。
「お前もまだだろ?」
「まだ、だけど……。いらない」
「何を云うの!」
村長の妻は、眉をひそめる。
「小柄なんだから、食べなさい!」
村長の妻は、食事を運びはじめる。
村長は、席に着く。
涼も坐る。
「それで、お前への話なんだが、」
村長は、咳払いをする。
「突然だが、お前には、この家を出てもらう」
「そうする」
「いや。そう云うことじゃない」
涼の即答に、村長が焦る。
「東に行け、と云う話じゃない」
「なら?」
「結婚すると云う意味だ」
そこで、涼は驚きの表情を見せる。
「結、」
「そう。結婚だ」
村長が訊く。
「お前いくつだ?」
涼は、首を振る。
「もう、適齢だろう」
村長が云う。
「村の若者も、もう時期に入ってる」
「いや。俺はしない」
「だめだ」
「しない」
「村長命令だ」
「悟(さとる)!」
涼は、村長を見る。
「俺の髪色を見ろ。そんなこと絶対に出来ない」
「何だ。相手が可哀相とか、思ってるのか」
「あんたは、俺の素性を知っているのに!」
「素性とかやめろ」
村長が云う。
「お前は、何であろうと俺の息子だ」
涼は、目を細める。
「親が、子の仕合わせを願って悪いのか?」
「その話は、聞きたくない」
そこで、村長の妻が、最後の料理を運んでくる。
村長の妻は、村長の横に坐る。
「何、あの話?」
村長の妻が云う。
「断る理由なんかないでしょ、涼」
さらに
「西は、恋愛婚か命令婚。どちらかなのよ。……ほら、食べなさい」
村長の妻は、涼に皿を差し出す。
涼は、受け取らない。
「必要なものは、うちで準備してやる」
「そうね」
村長の妻が云う。
「お旧なら、私のを出してあげるわ」
西一族には、
嫁に、その家で使われていた装飾品を渡す風習がある。
「それ以外の結納品も出すでしょ?」
「もちろんだ」
「楽しみねぇ」
村長の妻は、そう、笑う。
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