TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」4

2016年06月10日 | T.B.2019年

 村に入り、ふたりは広場へと向かう。

「何だ、誠治!」
「何も獲れなかったのか!」

 先に戻っていた者たちが、おもしろそうに声を上げる。

「獲れてないのは、お前らも一緒だろ!」
「収穫なしかよー」
「一応、」

 誠治は、先ほど涼が仕留めた鳥を見せる。

「おっ」
「いいじゃん」

 誠治と彼らは談笑をはじめる。

 涼には、話しかけない。
 ただ、一瞥したきり。

「みんな、戻っているのか!」

 今回の狩りのまとめ役が、声を上げる。

「報告を!」

 いくつか、手が上がり、まとめ役は獲物を確認する。
「何だ。だらしないな」
 今回は、少人数の狩りとは云え、皆、腕がある者ばかりなのに。
「食糧も底を尽きるぞ」

 そこに、村長と補佐役が現れる。

「どうだった?」
「だめです。村長」
「仕方ない。時期的なものだからな」
 補佐役が云う。
「ほかに何か報告は」

 皆、首を振る。

 と

 誠治が手を上げる。

「どうした? 誠治、何かあったか?」

 誠治が頷く。
「山一族がいた」

「……山?」

 広場にいる者たちは、その言葉にざわつく。

「山、がいただと?」

「ああ」

「……そうか」
 村長は手を叩く。
「誠治は報告を。あとの者は解散だ」

 まだ、広場はざわついている。
 皆、何かを云いながら、広場を去って行く。

 村長は誠治に云う。

「補佐役に報告しろ」
「判った」

「涼!」

 村長は涼を呼ぶ。

「お前はこっちだ」

 涼は、村長の下へ近寄る。

「無事に戻ったか」

 云うと、村長は歩き出す。
 涼も、続く。

「この時期の狩りは、あまり期待するな」
 村長が云う。
「天気が回復すれば、」
「山一族とは、何だ?」
 涼は、村長の話をさえぎる。
「西と争っているのか」

「……まあ。そんなもんだ」
 村長が頷く。
「だが、やつらが、西一族の村まで降りてくることはない。心配するな」

 涼は、村長の背中を見る。
 村長は振り返らない。

「そんなことより、お前には別の話がある」
「別の話?」
「そうだ」
「それは、東へ行くことの話か」
「違う」

 村長が云う。

「話は帰ってからだ」



NEXT

「成院と晴子」2

2016年06月07日 | T.B.2003年

「ただいま」
「お帰り成先生!!」

帰宅した成院を
出迎えたのは晴子の弟。
成院は首をひねる。

「あれ?
 水樹、何かあったのか?」
「姉ちゃんの手伝いだよ」
「手伝い?」

おかえりなさい、と
遅れて晴子が奥から歩いてくる。

「水樹には荷物を
 運んで貰おうと思って」
「そうか、世話になるな」
「成先生のためなら頑張るよ、俺」
「姉ちゃんのためって言っとけ」

一瞬、晴子の容態が急変したのか、と
そう考えてしまった成院は
内心胸をなで下ろす。

「ところでそれ、どうしたの?」

晴子に言われて
成院は抱えていた荷物を
部屋に下ろす。

「緑子から晴子にだと」
「わぁ、こんなに沢山
 何かお礼をしないと」

何にしようかな、と
晴子は嬉しそうに首をひねる。

「あ、そうだった。
 先にご飯にしましょう。
 待たせちゃったわね」
「水樹も食べていくよな」
「え?いいの
 やりーー!!」

成院と水樹は晴子を手伝い
食卓に食事を並べる。

「随分と豪華な食事だな」
「明後日から里帰りするし
 水樹も来てくれたから」

子供が生まれたら
慌ただしくなるからね、と
晴子は言うが
テーブルを見回すと
並んでいるのは成院の好物。

「家の事はいいから。
 実家に帰る準備はしているのか」
「荷造りはもう済んでいるわ。
 今日水樹に持っていって貰う分で
 ほとんど終わり」

里帰りと言っても
同じ村の中なので
予定日の一週間前になる。

明後日には成院も付き添って
送っていく予定だ。

「安静にしていた方が
 良いんじゃないのか」

成院は食事の準備を進める晴子に
声をかける。

「激しい運動じゃなければ
 少しは動いていた方が良いの」

うん、と
それでも気になり
晴子の大きなおなかを見つめる。

「変なの」

晴子は笑う。

「成院はお医者様なのに」

「まだ、見習いだよ」

家族の事を冷静に診れるほど
経験も自信もない。
むしろ今は知識が邪魔をして
不安な事ばかりしか思い浮かばない。

「無事に生まれて欲しいだけなんだ」

うわぁ、と
2人のやりとりを見ていた
水樹が呟く。


「成先生が
 父親してるわ~」


NEXT

「涼と誠治」3

2016年06月03日 | T.B.2019年

 浅く眠りについた誠治は、涼の声にはっとする。

「起きろ、誠治」

「――なん、」

「静かに」

 涼は、首を振る。
 正面を見ると、火が消えている。

 涼が、消したのだ。

「……何かいるのか」
「いる」
「何だ?」

「人がいる」

「人?」

 誠治は目を細める。
 あたりをうかがう。

 狩りにやってきた、別の西一族、か。

 いや

 ……違う。

「おそらく、向こうはひとりだ」
 涼が云う。
「でも、何か動物を連れている」
「たぶん、馬だな」
「まくか?」

「まこう」

 誠治が頷く。

 ふたりは、手早く荷物をまとめ、動く。
 身をひそめるように、茂みを歩く。

 足下は悪い。

 しばらく進み、誠治が振り返る。

「どうだ?」

「離れた」

「……そうか」
 誠治は大きく息を吐く。
「仕方ない、今回は下山だ」

 その言葉に、涼は、誠治を見る。

「獲物は獲らないのか」
「そう云う状況じゃない」

 誠治は再度、歩き出す。

 涼も続く。

「誠治は、さっきの人間が誰だか判るのか」
「判るさ」
 誠治は歩きながら云う。

「山一族だ」
「山……」

「何だ、お前知らないのか」

 誠治が云う。

「西と山とは、土地のことで争ってる」
「土地?」
「つまり、狩り場だよ」

 誠治が続ける。

「東と争ってた頃。……三世代前だな。不可侵条約が結ばれてる」
「なら、俺たちが、土地を越えたのか?」
「ばか云え!」
 誠治が声を上げる。
「最近は、その条約自体があいまいなんだよ!」
「つまり?」
「山一族のやつら、自分たちの場所だと、どんどん降りてきてるんだ」
 誠治は息を吐く。
「でも、下手に手は出せない」

 涼は頷く。

「報告か?」

「そうだな。とりあえず、村長に……」

 西一族の村が見えて、誠治は立ち止まる。

 その様子に、涼は首を傾げる。

「どうした?」
「……みんなに、笑われるな」
「何を?」
「何も獲ってきてないのか、て」
 誠治は息を吐き、頭を抱える。
「悔しい!」

 涼は、誠治を見る。

「鳥でも捕るか?」
 云うと、涼は空を見る。
 山のふもとで、鳥の群れが飛んでいる。

 低い。

 涼は、弓を構える。

「獲れるのかよ」
「無駄に獲りはしない」

「……お前」

 誠治は、目を細める。
 涼は、落ちた鳥を掴む。

「……三匹だけど」

 誠治は、黙ってそれを受け取る。



NEXT