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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と晴子」2

2016年06月07日 | T.B.2003年

「ただいま」
「お帰り成先生!!」

帰宅した成院を
出迎えたのは晴子の弟。
成院は首をひねる。

「あれ?
 水樹、何かあったのか?」
「姉ちゃんの手伝いだよ」
「手伝い?」

おかえりなさい、と
遅れて晴子が奥から歩いてくる。

「水樹には荷物を
 運んで貰おうと思って」
「そうか、世話になるな」
「成先生のためなら頑張るよ、俺」
「姉ちゃんのためって言っとけ」

一瞬、晴子の容態が急変したのか、と
そう考えてしまった成院は
内心胸をなで下ろす。

「ところでそれ、どうしたの?」

晴子に言われて
成院は抱えていた荷物を
部屋に下ろす。

「緑子から晴子にだと」
「わぁ、こんなに沢山
 何かお礼をしないと」

何にしようかな、と
晴子は嬉しそうに首をひねる。

「あ、そうだった。
 先にご飯にしましょう。
 待たせちゃったわね」
「水樹も食べていくよな」
「え?いいの
 やりーー!!」

成院と水樹は晴子を手伝い
食卓に食事を並べる。

「随分と豪華な食事だな」
「明後日から里帰りするし
 水樹も来てくれたから」

子供が生まれたら
慌ただしくなるからね、と
晴子は言うが
テーブルを見回すと
並んでいるのは成院の好物。

「家の事はいいから。
 実家に帰る準備はしているのか」
「荷造りはもう済んでいるわ。
 今日水樹に持っていって貰う分で
 ほとんど終わり」

里帰りと言っても
同じ村の中なので
予定日の一週間前になる。

明後日には成院も付き添って
送っていく予定だ。

「安静にしていた方が
 良いんじゃないのか」

成院は食事の準備を進める晴子に
声をかける。

「激しい運動じゃなければ
 少しは動いていた方が良いの」

うん、と
それでも気になり
晴子の大きなおなかを見つめる。

「変なの」

晴子は笑う。

「成院はお医者様なのに」

「まだ、見習いだよ」

家族の事を冷静に診れるほど
経験も自信もない。
むしろ今は知識が邪魔をして
不安な事ばかりしか思い浮かばない。

「無事に生まれて欲しいだけなんだ」

うわぁ、と
2人のやりとりを見ていた
水樹が呟く。


「成先生が
 父親してるわ~」


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