「だから、お前は何の心配もせず、」
涼は立ち上がる。
「涼?」
涼は、ふたりを見下ろす。
「俺には出来ない」
「……涼」
「もう、何度も云わない」
涼は、部屋を出ようとする。
「ちなみに、だ」
村長は、涼の後ろ姿に声をかける。
「相手の子、ちょっと足が悪くてな」
村長が云う。
「狩りに行けない、役立たず扱いだ」
涼は、振り返らない。
「ほかに取り柄もなくてな。……立場がない」
「…………」
「お前が、助けてやってくれ」
涼は、答えない。
そのまま、部屋を出る。
「…………」
「……ふーん」
村長の妻は、料理をつまむ。
「あなた、涼を想うなら、もっといい子を用意したら?」
村長の妻が云う。
「何で、役立たずの子なのよ」
「村長命令でも、あいつは黒髪だ。どの親も喜ばない」
「なら、その、役立たずの子の親は?」
「まあ、いろいろ条件付けて、頷かせてる」
「へえ」
「親も訳ありだからな」
「弱みをついたのね」
「云い方を考えろ」
「それは、ごめんなさい」
村長の妻は、別の料理をつまむ。
云う。
「ひどいわね」
「何が?」
「あの子は、これまで、いろんなものを抱えてきたのよ」
「……だろうな」
「なのに、まだ、抱えさせようとするのね」
村長は何も云わない。
「口数は少ない子だけど、……あの子も判ってるわ」
村長の妻が云う。
「相手の子が、自分に対しての人質になるってこと」
村長は、小さく頷く。
「あいつを、逃がすわけにはいかない」
「はーん。」
村長の妻は、村長を見る。
「そんなに、あの子を好きなのね。私の子より?」
「比べるな」
村長が云う。
「響(ひびき)と涼は、比べられない」
「いいのよ。別に妬まないし」
「……あいつは、西の多くを知ってる」
「ええ」
「だからこそ、あの髪色を持って、東に裏切られたら……」
「あの子が、東と手を組むと?」
「ありえない話、じゃない」
「そうね」
村長の妻が云う。
「恋愛婚じゃないんだもの。いつだって、置いて出て行っちゃうわ」
「そこか?」
「そうよ」
「男が嫁を置いていくか?」
村長の妻は、ため息をつく。
「だったら、もっと、いい子を用意してあげたら?」
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