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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と晴子」3

2016年06月14日 | T.B.2003年

呼びかけられた気がして
成院は、す、と
目を覚ます。

室内は暗く
まだ、夜明けには早い。

「成院」

晴子の声だと分かり
成院は起き上がる。

「どうした?」

「……夜中に、ごめんなさい」

成院は枕もとの灯りをともす。

「良いから、どうした?」

僅かな灯りに目が慣れてくると
晴子の様子も分かってくる。

「……子供、か?」

晴子はお腹を押さえている。

「生まれるのかも」

絞り出すように言う晴子に
成院は冷静に、と
自分に言い聞かせる。

予定日よりは早いが
早すぎるということは無い。
いつ生まれてもおかしくない時期だ。

「夜にごめんね」
「気にしなくていいから。
 産婆さんを呼んでくる」

晴子を楽に座らせて
成院は家を飛び出す。

「それで」

夜中にたたき起こされた
東一族の医師は
緊急時になれているのか
寝ぼけることもなく対応する。

「産婆さんは?」

東一族では
女性の出産は産婆が立ち会う事が多い。

それが、と成院は言う。

「他に産気づいている人が居て
 そちらがもう生まれるから
 とりあえずは、先生に診てもらっていてくれ、と」

ふぅん。
と、医師は頷く。

「そういうのって重なるみたいだよね。
 月の満ち欠けが関係あるとか、ないとか」

了解、と
医師は家を出て、成院の自宅に向かう。

帰ると声を掛けていた
晴子の家族が
晴子に付き添っている。

はいはい、ちょっと、と
医師は晴子の様子を見る。

「晴子、随分我慢していたね」
「ごめんなさい。
 夜だったから」
「そうじゃないよ、陣痛は
 もっと早く来ていたでしょう」
「そうなのか?」

成院は驚いて声を上げる。

「初産は陣痛が来ても
 時間がかかると聞いていたので
 様子を見ていようと思って」

申し訳なさそうな晴子に
そうじゃない、と
成院は焦る。

「気にするな。
 俺が気付くべきだった」

うーん、と
医師は辺りを見回すと
晴子の母と兄嫁に声を掛ける。

「亜子さんと篤子さんは
 晴子に付き添って。
 いざというときは立ち会いをお願いします」

そして、晴子の父と
兄、弟、を部屋から出す。

「男性陣はしばらく違う部屋で待機」

それに続こうとした成院の
首根っこを捕まえる。

「あ、そっか
 俺は着いていないと」

これから大変なのは
晴子なのだから
側で支えないと、と意気込む成院に

いやいや、と医師は言う。

「成院、
 君、医師見習いだよね」

何を?と
成院は医師の意図が上手く読み取れない。
この医師に付従い
医学を学んでいるのは事実。
だけど、それが
今、何の関係があるのか。

「大丈夫、
 私が指示をするし、フォローもするから」
「なにを」

成院、だから、と
医師は言う。


「もし産婆さんが間に合わなければ
 君が子供を取り上げるんだよ」


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