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「海一族と山一族」9

2016年05月03日 | T.B.1998年

「少し、落ち着いたようね」

そう言って、アキノは立ち上がる。

「姉さんが居て、良かったよ」

その様子に、トーマも
安堵の息を吐く。

「私も専門ではないから
 本当はお医者様に見せるのが良いのだけど」
「……」

2人はトーマのベッドに横たわる
少女を見つめる。

小さく息をしている彼女は
トーマが見つけた時より
随分と体温を取り戻したように見える。

恐らく長い間
水につかっていたのだろう。
どこかから流されたのか
打ち身もあったようだ。

医師に診せた方が良い、というのは
トーマも重々承知している。
そうできないのは
彼女の額の証。

「どうして山一族が」
「騒ぎになるだろうか」

本来ならば長に知らせるべき事。
トーマ1人で扱って良い事態ではない。

山一族との関係は
それほど敏感にならなくてはいけない。
彼女にとっても
そちらの方が良いことかもしれない。

ただ。

「なぜ、あそこに流れ着いていたのか
 事情が分かれば」

トーマは言う。

「……水を取り替えてくるわ」

アキノは立ち上がり席を外す。

これから、どうしようか、と
椅子に掛けながらトーマは考える。
いつまでもこんな状態で居るわけにはいかない。

彼女が目を覚まさないようであれば
やはり医師にかかった方が良いだろう。
ミナトとカンナには
相談するべきだろうか。

しばし頭を抱えた後、
ため息をついて視線を彼女に向ける。

山一族の事はよく分からない。
友好的とは言い難い相手だ。

金色の瞳は
噂で聞いた通りの
山一族の特徴。

「え?」

彼女と目が合っている。

「……?わたし?」

小さく、掠れた声が漏れる。
状況が掴めていない上に
目の前に居るのは
海一族。

「なんで?え?え?」

これ以上混乱させてはいけない、と
トーマはそっと声をかける。

「落ち着いて、
 大丈夫。何もしないから。
 俺はトーマ、ここは海一族の村だ」

安心させるために、と
声を掛けたが
海一族という言葉に
彼女は表情を凍らせる。

「もう、お役目がきたの?」

怯えたように彼女が言う。
混乱しているんだろう、と
トーマは少しだけ距離を開ける。

「役目?」

「……違うの?」

「多分、違う。
 君がここにいることは
 俺と姉しか知らない」

「……」

「川で倒れていたんだ。
 流されたようだったけど
 覚えていない?」

え、と
彼女があちこちに視線を巡らせる。
これ以上の質問は後にしよう、と
トーマは立ち上がる。

「なにか、温かい飲み物を持ってくるから」

部屋を出ながら
もう一つだけ、と
トーマは振り返って問いかける。

「君、名前は?」

しばらく躊躇った後
彼女が言う。


「カオリ」



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