「そう決めた?」
「黒髪との約束」
「約束?」
紅葉は首を傾げる。
「ああ、もう! それで帰ってくるかどうかとか向こうは約束してないし!」
「んん?」
「おかしくない!?」
「んんん?」
「こっちの話!」
「全然判らないんだけど」
「だから、こっちの話!」
「琴葉」
「あんたはそうよ、前村長の孫と結婚すればいいのよ!」
「急に、どう云うこと!!?」
「紅葉はもてるからいいわよね、て、話!」
「ええ、そうかなー?」
「否定しなさいよ!」
琴葉は、水をばしゃばしゃさせる。
「うちらは本当に西一族から棄てられた人間!」
「琴葉。だから、狩りにおいでって」
「行かない!」
「矛盾!」
「やりたい、かつ、出来ることしかやらないから!」
「全部やりなさいよ!」
「決めるのは私!」
琴葉は立ち上がる。
息を吐く。
紅葉はもういない。
横を見る。
黒髪の彼が立っている。
「…………」
「…………」
「お帰り」
「誰かいた?」
「いたよ」
「そう」
「紅葉がね。何か、怒りながら帰った」
「そう」
彼は、琴葉が広げた植物を見る。
いずれ、薬になるもの。
「やってるの?」
「やってるよ。どうこれ?」
「いいと思うよ」
「云われた通りにやったし」
「喜ぶね、医師様」
「今更だけど。あんた何で、医者を医師様って云うの?」
琴葉は云う。
「お腹がすいたな。何か食べよう」
「うん」
「何かおいしいものを作るわ」
「うん」
「肉をたくさん使ってね!」
「それは無理」
「あんたね。私にばかり約束させないで、ちょっとは私の云うことも聞きなさいよ」
「もっともだ」
涼が云う。
「それで?」
「うん?」
「どうするの? これから」
「だからそれは」
「続けるの?」
「続けるわよ!」
琴葉は云う。
「ちょっとでも薬を覚える! そうすれば一族の役に立てるでしょ!」
「うん」
「あんたの功績がなくたって、私は立場を取るからね!」
「うん」
「いつか、私があんたの功績まで取ってやるわ!」
「そうすれば、俺は狩りに行かなくてよくなるね」
「いや。そこは、獲物を獲ってきてよ」
琴葉は、家に入ろうとする。
彼もそれに続く。
が
琴葉は振り返る。
「…………?」
涼は首を傾げる。
「涼」
「何?」
「えーっと、」
琴葉は涼を見て、空を見る。
再度、涼を見る。
彼は、西一族ではあり得ない、黒い髪。
「私は、さ」
「うん」
「……あなたと、生きたい」
2019年 西一族の少女の話