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「琴葉と紅葉」40

2019年12月13日 | T.B.2019年



「そう決めた?」
「黒髪との約束」

「約束?」

 紅葉は首を傾げる。

「ああ、もう! それで帰ってくるかどうかとか向こうは約束してないし!」
「んん?」
「おかしくない!?」
「んんん?」
「こっちの話!」
「全然判らないんだけど」
「だから、こっちの話!」
「琴葉」
「あんたはそうよ、前村長の孫と結婚すればいいのよ!」

「急に、どう云うこと!!?」

「紅葉はもてるからいいわよね、て、話!」
「ええ、そうかなー?」
「否定しなさいよ!」
 琴葉は、水をばしゃばしゃさせる。
「うちらは本当に西一族から棄てられた人間!」
「琴葉。だから、狩りにおいでって」
「行かない!」
「矛盾!」
「やりたい、かつ、出来ることしかやらないから!」
「全部やりなさいよ!」
「決めるのは私!」

 琴葉は立ち上がる。
 息を吐く。

 紅葉はもういない。

 横を見る。

 黒髪の彼が立っている。

「…………」
「…………」
「お帰り」

「誰かいた?」

「いたよ」

「そう」

「紅葉がね。何か、怒りながら帰った」

「そう」

 彼は、琴葉が広げた植物を見る。
 いずれ、薬になるもの。

「やってるの?」
「やってるよ。どうこれ?」
「いいと思うよ」
「云われた通りにやったし」
「喜ぶね、医師様」
「今更だけど。あんた何で、医者を医師様って云うの?」

 琴葉は云う。

「お腹がすいたな。何か食べよう」
「うん」
「何かおいしいものを作るわ」
「うん」

「肉をたくさん使ってね!」

「それは無理」

「あんたね。私にばかり約束させないで、ちょっとは私の云うことも聞きなさいよ」
「もっともだ」

 涼が云う。

「それで?」
「うん?」
「どうするの? これから」

「だからそれは」

「続けるの?」
「続けるわよ!」

 琴葉は云う。

「ちょっとでも薬を覚える! そうすれば一族の役に立てるでしょ!」
「うん」
「あんたの功績がなくたって、私は立場を取るからね!」
「うん」
「いつか、私があんたの功績まで取ってやるわ!」
「そうすれば、俺は狩りに行かなくてよくなるね」
「いや。そこは、獲物を獲ってきてよ」

 琴葉は、家に入ろうとする。

 彼もそれに続く。
 が
 琴葉は振り返る。

「…………?」

 涼は首を傾げる。

「涼」

「何?」

「えーっと、」

 琴葉は涼を見て、空を見る。

 再度、涼を見る。

 彼は、西一族ではあり得ない、黒い髪。

「私は、さ」
「うん」

「……あなたと、生きたい」





2019年 西一族の少女の話




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