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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」8

2019年11月01日 | T.B.2019年

 木の葉が散る時期。
 この時期が過ぎると、ほんの少し、厳しい時期がやって来る。

「兄様、今日は何をするの?」
「今日は、だな」
「南に行く?」
「いや、いったん芋焼くか!」
「いったん!!」

 彼は手に持つものを見せる。

「おお!」

 まごうとなき、芋。

「すごい! すごいわ!」
「すごかろぅ!」
「初回から、いろいろ食べ過ぎている気がするけど!」
「この時期を満喫せねばなるまい!」

 彼はこっち、と、手を招く。
 彼女は彼に続く。

 田畑の道。

 彼女はあたりを見る。
 木の葉が舞う。

 彼が立ち止まり、声を出す。

「おーい!」
「?」

 彼女は彼が見る方向を見る。

「ここ場所借りてもいい!?」

 畑で作業をする東一族が顔を上げる。
 ふたりに気付く。

「何だ。毎年のあれか!」
「そう、あれ!」
「もちろん合点! 楽しみにしているよ!」

 収穫の終わった畑の隅に、彼は、枯れ葉を集めはじめる。
 彼女も真似をする。

「火を起こすのね」
「そう。落ち葉はたくさん集めるんだ」

 ふたりは、せっせと落ち葉を集める。

「兄様、こんな感じ?」
「いやいや、もっとだ」
「もっと? これじゃ足りないの?」
「当たり前だ!」

 彼はなぜだか、胸を張る。

「みんなの分を焼くからな!」
「みんなって?」
「家族と友だちと、……媛さんの家族も食べるだろう?」

 知り合いが多いと、大変なのである。
 彼女と彼は、落ち葉を集める。

「兄様、芋好きなの?」
「そうなんだよー、芋好きなんだよなー」

 彼は笑う。

 芋を水で濡らし、くるむ。
 落ち葉に火を付ける。

(よい子は大人の人とやろうね!)

「はあ、楽しみだなぁ」
「うんうん」

 彼はさらに落ち葉を集める。
 彼女は火を見守る。

「ねえ! もういいかな?」
「まだ!」
「兄様ー!!」
「まだだって!」
「これいつ出来るの!?」
「俺に任せろ!」

 鍋奉行ならぬ、焼き芋奉行。

 彼は集めた落ち葉を、横に置く。
 火加減を見る。

「よしよし」
「もう食べられる?」
「これは焼けてる」

 彼は、焼き芋を彼女に渡す。

「あっつ!!」
「熱いから気を付けろよ~」
「遅っ!!!」
「焼き立てなんだから、当たり前だろう」

 彼女は手のひらを、ふうふうする。

「おっ、うまそう」

 彼は焼き芋を半分に割る。
 ほくほくの中身が現れる。

「おいしそう!」
「うまいぞ!!」
「おいしい!」
「うまい!!」

 彼女と彼は、芋をほおばる。

「懐かしい味ー」
「なふふぁひい??」

 もぐもぐしながら、彼が訊く。

「何、懐かしいって?」
「判らないけど、懐かしい味」
「焼き芋が?」
「誰かにもらったのかなぁ」
「ふーん?」

 彼女は空を見る。

「空が、高い」
「だな!」

「兄様」

「何?」

「またやろうね!」
「もちろん!」





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