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「辰樹と媛さん」22

2020年09月04日 | T.B.2020年

「いっつうぅううぅう(涙)」

「…………」

「お腹っ……」

「食べ過ぎだ」

「仕合わせの痛み……」

「加減と云うものが、」

 しくしく、涙を流しながら
 彼女は布団の上で、ごろごろする。

「うぅう、父様。お腹が痛い」
「直に医師が来る」
「急いで、医師様……」

 まあ、食べ過ぎなのだから
 出すものを出して休めば、収まるはずなのである。

 薬を飲むほどではない。

「もう食べない、果物、食べない」
「…………」
「今日は、食べない」
「決意が何とも……」

「失礼します」

 医師ではなく、従姉が入ってくる。
 父親は立ち上がる。

「わあ、もう。食べ過ぎでしょ!」
「従姉様、本当にめっちゃ痛いのお腹」
「あなたの護衛さんは尋常じゃないんだから、真似しちゃ駄目!」
「兄様は?」
「普通に務めに出てる」
「尋常じゃないのね、兄様……」

「護衛さんどうなんでしょうね?」

 従姉は、ちらりと彼女の父親を見る。

「一度、他の者に変えてみるとか?」
「腕は確かだ」

 父親が云う。

「出来ることは多い」
「そうですか?」
「戦術も、仲間を想うことも」
「そう、……ですか」

 従姉の頭の上に、ぐるぐると彼の妙な光景ばかりが浮かぶ。

 虫かごいっぱい虫をいれてたなぁ、とか
 川に向かって走り出して、足が沈む前に次の足を! って沈んでいたなぁ、とか。
 机の上に見えない帳面がある! って、それ忘れ物ごまかしてんじゃん、とか。

 以下、いろいろ。
 数え切れない。

「どうした?」
「いえ、切実に動悸が」

 父親は、彼女を見る。

 彼女は布団に顔を沈める。

「だから、あの子の相方にも選んだんだ」
「…………」
「様子を見てみろ」
「だいぶ見てますけど」

 従姉は、彼女の父親を見る。
 あの子とは、たぶん、従兄のことだろう、と。

 医師が入ってくる。
 彼女と従姉を見る。

 彼女の父親に何かを云う。

 彼女の父親は頷き、そのまま部屋を後にする。

「何かしら?」

 従姉は首を傾げるが、彼女はそれどころではない。

「医師さまぁああぁああ」

 そのあと、医師から渡された薬を飲んで、休む。
 お昼過ぎに目が覚めたときには、すっかり体調は戻っている。

「お、治った!」

 若いってすごい。

「そして、お腹空いた!」

 本当に、若いってすごい。

「従姉様どこかな~。食べるものもらおうっと」

 彼女は屋敷を歩く。

「…………?」

 屋敷は静まりかえっている。

「何?」

 彼女は呼ぶ。

「従姉様ー!」

 何か、様子がおかしい。

「え? みんなどこ?」

 彼女は、外へと出る。




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