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「武樹と父親」8

2020年09月01日 | T.B.2017年

ほう、と武樹は一人帰り道を歩く。

今日は学術の試験も良い結果だった。
気も乗ったので
サボりがちな修練にも出席した。

えらい、と
自分で自分を褒める。

「なにか、いいことあったりして」

夕飯、好きなおかずとか。
思っても無いような
驚きの知らせが舞い込む、とか。

「武樹じゃないか」

声をかけられ振り向くと
沙樹の父親が手を振っている。

武樹は駆け寄り、
目上の人への礼をする。

「いつもウチの子達と
 遊んでくれてすまないな」
「いえ」

沙樹の父親は医術師。
外で見かけるのは珍しい。

「今日はお休みですか?」
「いや、外回りなんだ。
 先生が急用で外しているから交代だ」
「へえ」

元々戦術師だったという沙樹の父親は
生まれた沙樹の体が弱いと知って
医術師に転向した、とかなんとか。

「ああ、そうそう。
 これをあげよう」

沙樹の父親は
袋を取り出す。

「豆菓子なんだけど、
 甘いのは好きか?」
「やった」
「もらい物のお裾分けなんだが、
 珍しだろう、南一族のお菓子だ」
「わあ」

沙樹と羽子にはあげてないから
秘密だぞ、と
貰ったお菓子を頬張りながら帰路につく。

「甘いけど、甘すぎず」

ふむふむ、と
味わっている間に家の前に辿り着く。

いかんいかん
食べ歩きとか母親に怒られる、と
名残惜しいが飲み込む。

「うん、いいことあったな」

南一族の村。

他一族の村もだけれど
まだ武樹は村の外には出たことが無い。

行くならば市場がある北一族の村、と
決めていたけれど
南一族の村なんかも、良いかも知れない。

「ただい……うん?」

あれ?と首を捻る。
家の奥からは話し声。

「お客さん?」

顔を見せて挨拶をするべきだろうが
何やら明るい雰囲気ではない。

「………うーん」

深刻な話だったら
大人しく
部屋に引っ込んでおいた方が良いだろう。

「ただい、ま~」

少し遠慮がちに声を出し、
そうっと居間を通り過ぎようとする。

「武樹」

「……!!」

その顔ぶれに武樹も驚く。

自分の母親と、
そして、未央子の父である医師。

二人は武樹が帰って来た事で
話しを終わらせる。

「そういう事か、分かった」
「………」

医師の言葉に、母親は黙って頷く。

出されていたお茶を飲み干して、
それでは、と医師は立ち上がる。

「こんにちは、医師様」

武樹は立ち去る医師を見つめる。
何をしに来たんだ、と
睨み付けるように。

「ああ、すまない。
 お前の母さんと少し話しをしていた」

医師は武樹を見つめる。

「………あぁ、お前が、そうなのか」

小さな呟きを武樹は聞き逃さなかった。

感慨深げに、哀れむような、懐かしむような、
医師自身も何かに驚いているような、
そんな目で。

来客が去り、
家に居るのは母親と武樹のみ。

「武樹おかえり。
 もうこんな時間ね、夕ご飯作らなきゃ」

何が良いかしら、と
立ち上がる母親。

「母さん」

武樹は問いかける。

「医師様となんの話?
 なんであの人が家に来ていたの?」

「うん」

気になるよね、と母親は言う。

「武樹にもちゃんと話すわ」

でも、と困った顔をして
母親は呟く。

「少しだけ時間を頂戴」

ごめんね、とそう加える。

何があったんだ、と
知りたいけれど、
武樹は母親を困らせたい訳じゃない。

「……分かった、待っとく」

その言葉に、母親は頷く。

「ありがとう。
 さあ、夕飯の仕度をしないとね」


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