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「武樹と父親」9

2020年09月08日 | T.B.2017年

「むつ兄さあ」

哉樹が言う。

「どうして修練サボるわけ」
「………」

見つかったか、と、武樹はため息をつく。
これから修練の時間だが
武樹はそこを抜け出して帰る所。

「ずるいと思ってるなら、
 お前もさぼれば」

「そう言う話じゃ無いだろう」

哉樹は眉をひそめる。

「なんでサボるんだって
 聞いてるんだよ」

「なんでって
 面倒だからだよ。
同じ型を繰り返したりって
そういうの苦手なの」
「学術はちゃんと聞いてるのに」
「お前は学術苦手だもんな」
「苦手なりに、やってるだろう、俺」
「うんうん、
 偉いと思うよ、そう言うの」

「話し、逸らすなよ」

ああ、怒らせたな、と
武樹は振り返る。

「むつ兄、
 体術得意だろう?
 なのに、手ぇ抜いたり、
 前も時々さぼっていたけど、最近酷いよな」

うん、と頷く。
哉樹が言ってる事は何も間違っていない。

「でも、俺、
 戦術師になりたいわけじゃないし」
「じゃあ、なんになるんだよ。
 占術師?医術師?」

「どれにもならない」

「はあ?」

「前からいってるじゃん。
 俺、商いとかして暮らしていくって」
「冗談言うな!!」
「冗談じゃないよ」

「逃げてるだろ!!」

「は?」

「むつ兄の逃げ道に、言ってるだけだろう」

「黙れ!!」

づかづか、と
武樹は哉樹に詰め寄る

「っつ!!
 何度も言うぞ、
 勿体ないし、失礼だ!!」
「黙れ、って
 言ってるだろ!!!」

襟首を捕まれても
哉樹は言葉を止めない。

「沙樹兄なんて、
 戦術師になりたくたってなれないのに」

武樹は頭が真っ白になる。

「俺だって、なあ!!!」

「ってえ」

「………あ」

頬を押さえる哉樹。
痛む右手の甲に、
手を出してしまった事を知る。

「………」

武樹は逃げるようにそこから駆け出す。

待てよ、と
哉樹の声が聞こえるが
今は振り返れない。

ああ見えて、哉樹は真面目だ。
色々考えて動いている。

怒らせたくて言った訳じゃない。
他の人から武樹が悪く言われるのが
許せなかっただけだろう。

そんなの放っておいて良いのに。

「俺だって、」

体を動かすのは好きだし、
体術も得意な方だと思う。

この村で暮らすのならば
きっと戦術師になっていただろう。

「でも」

なんだろう。

悲しいのと、悔しいのと、
虚しいのと、それが全部。

全部ぐちゃぐちゃになって
武樹自身、
混乱している。

「俺だって、
 戦術師になりたくても、なれないんだよ」

ひとり、呟く。

「あれ、むっくん?」

あてもなく走ったつもりでも
結局、いつもと同じ所に向かっていた。

もうすぐで我が家が見える。
そんな所にある小さな小川のほとり。
鍛錬や学術の帰りに
いつも遊んでいる場所。

「えっと、どうしたの……泣いてる?」

こっちおいで、と
手招きする沙樹に武樹は頷く。

「俺もう、嫌だよ、
 出て行かなきゃ、
 ………どうしよう、沙樹くん」


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