TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「戒院と『成院』」5

2019年10月29日 | T.B.2000年


「あ、いまの」

隣にいた俊樹が言う。

「なんか戒院っぽかったな」

なんて、と俊樹は『成院』を見る。
少し驚いた様な表情を浮かべ、
噛みしめる様に頷く。

「そうか、戒院か、うん」

「……………すまん」
「俊樹が謝る事じゃないだろ。
 はは、似てきたのかもな」
「成院は成院だろ」
「だから、気にするなって」

しまったな、と俊樹は頭をかく。
この手の話題は避けていたのに
ぽろりと口から漏れてしまった。

「ちなみに、どう似てたんだ」
「あー、そのな、
 考えるとき手を口元に、当てる所」

どちらとも仲良くしていた俊樹だから
2人の事はよく知っている。

真面目だが融通のきかない成院と
明るくどこか浮ついた所のある戒院。
顔は同じだけれど
正反対の双子だった。

「いや、でもな。
 成院は真面目そうで
 時々びっくりするような事するし、
 戒院はあぁ見えて
 結構冷静な所あるし」

「え?なに悪口?」

「違うって」

要するに、2人揃って
ちょうど良かった。

「もう、一年か」
「あっという間だな。
 墓参りに来てくれよ。あいつも喜ぶ」

戒院が病で死んで、1年。

気にするなとは、言うが
死んだ兄弟と比べられては
いい気分では無いだろう。

手のかかる弟で困る、と
言ってはいたが、
片割れを無くした様なもの。

『成院』も以前と雰囲気が変わってしまった様な気がする。

「みんな居なくなったな。
 戒院も、光院も、杏子も」

あ、と俊樹は、口に手を当てる。

「……………」
「……………」

光院は宗主の息子で、
成院達とは親戚になる。
そして、杏子は光院の許嫁で、

成院の想い人だった。
完全に一方通行だったが。

「……………俊樹ってさ」
「……………」
「見事に地雷を踏み抜くな」

「ごめん!!ごめんて!!」

「逆に笑えるというか、
 あ、俺こっち帰るから」

「この度は誠に申し訳無くーーー!!」

「ははは」

じゃあ、また、と
俊樹と分かれて
『成院』は家路につく。

「もう一年」

ふう、とため息をつき
胸をなで下ろす。

「俊樹はよく見ている」

今のは少し危なかった。

「戒院っぽい、か」

無意識だった猫背は
あいつがそうだったように
常に姿勢を正した。

髪型ももちろん変えた。

言い方の癖や、
ふとした動き。

思いつく事は全て。

上手く出来ているのかと言われれば
それはよく分からない。

いくら顔が同じとは言え
他人になりすましているのだから。

気付いている人は
居るのかも知れない。

だからどうしたというのだ。

もう、
自分は『成院』なのだから。

と、無意識に口元に手をあてている自分に気付き
手のひらを見つめる。

「これは『戒院』の癖、か」


NEXT


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。