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「戒院と『成院』」6

2019年11月05日 | T.B.2000年

ふ、と横目に晴子の姿を捉える。

村の中心地を歩いて居るのだから
こうやってすれ違う事もあるだろう。

今日は何の帰り道だろうか。

仲の良い女友達と果物の砂糖漬けを作ったり
集まって針仕事をしたり、
いつも通りの生活を送っているんだろうな、と
それを微笑ましく思う。

そんなおりに
晴子がこちらに顔を向ける。

「あ」

しまった、見つめすぎた、と
慌てて目を背ける。

どうしたって
一番に晴子に目が行ってしまう。
沢山の人混みの中で
すぐに見つける事が出来る。

「成院、成院ったら」

おぉい、と晴子が駆け寄ってくる。

逃げる訳にもいかず
どうしたんだ、と冷静を装う。

「成院、先日はごめんなさい。
 きちんとあいさつもしないで」

「いいや」

『自分』の一周忌、
墓参りに来てくれた時の事を言っているのだと気がつく。

まだ、自分の事を覚えていて、
悲しんでくれた事が嬉しくて、
申し訳無くて。
でも、
そこに居るのは自分じゃないと
どうして気付いてくれないんだと
勝手な事を考えて、

居た堪れなくなって
声もかけずに
その場を後にした。

「気にしないでくれ」

むしろ謝るのはこちらの方なのに。

「すまない、戒院のせいで晴子にも
 つらい思いをさせているよな」

いいえ、と晴子は首を振る。

「ねぇ、成院。
 少し時間ある?」
「時間?あるけれど?」

「それじゃあ一緒にお茶でもしましょう」

「え?いや、それは」
「今、時間あるって
 言ったわよね!!!」
「ぇえええええ」

なかば引きずられる様に連れて行かれる。

「おねえさん、このお茶2つ。
 お菓子とのセットで」

テキパキと入り口で注文を済ませ
はいはい、とそのまま奥の席まで連行。

意外と晴子はこういう所がある。
大人しい様で
決めた事はきっぱりしている。

「……………」

運ばれたお茶の香りを楽しんで
一口飲んだ後、
さてと、と晴子は『成院』を見る。

「元気してた?」

そう尋ねられるのも仕方ない。
『成院』は晴子を避けていたから。

「うん。
 悪かったよ、
 ずっと晴子にも声を掛けないままで」

「私こそ」

それから暫く思案して、
あのさ、と問いかける。

「ねぇ成院、
 あなた、医師になるの?」

「あぁ、聞いたんだ?
 まだ見習いで、医師になれるかは五分五分かな。
 新しく学ぶことが多くって」
「……そう。少し驚いた」

そうだよな、と『成院』は思う。

「戒院が、弟が病で倒れたから
 そう思う様になったのかも、な」

『戒院』の名前が出た時
晴子の表情が変わったのが分かる。

「でも、それでも、成院」

「無理してない?」
「無理なんて」
「ねぇ、たまには会って
 色々と話をしない?」

以前は3人でよく話していたじゃない、と
晴子は提案する。

魅力的な誘いだ。
戒院ならば喜んでいただろう。

けれど。

「いや、止めよう」

「え?」
「晴子はもう、戒院の事を
 忘れた方が良い」

『成院』は晴子を見ずに言う。

「別の人と幸せになるべきだ。
 戒院だってきっとそう思っている」

お茶に誘ってくれてありがとう。
そう言ってその場を後にする。

店を出て、とりあえず、と
その場を後にする。

家には帰る気分ではない。
職場である病院も違う。
全てを知っている医師とは
今は会いたく無い。

足は自然と墓地へと向かう。

『戒院』の墓。

ため息をついて
墓前に座り込む。

村人の多くは伝染病の全てを知らない。
戒院が助かっても
死ななくてはいけなかったとは
分からないだろう。

だから、以前と違うなと
思う事はあっても
入れ替わっているとは思わない。

分かっている。

それでも、
晴子に会うのは堪える。

誰が悪いのかというと分からない。
成院は変わりになったのに、
ここに戒院がいる事自体
生かされているのに、

「なんだか、少し、」

少しだけ。

「疲れたなあ」


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