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「山一族と規子」6

2015年09月22日 | T.B.1962年

規子に二度目の村案内をして

青年は族長に呼び出されたのは
それから数日もたたないうちだ。

そろそろ頃合いだろう、と
青年も思っていた。

「呼び出された理由は分かっているだろうな」

青年は、族長の脇に控える
族長の三番目の孫を脇目で見る。

「フタミの者に手を出すなど
 ずいぶんとミヤ家も偉くなったものだ」

族長は続けるが
話が長引けば長引くほど
青年は、おいおい、という視線を族長の孫に向ける。

「………」

黙り通すつもりだったであろう族長の孫は、
そんな視線に耐えかねたのか
慌てて弁明を始める。

「爺様、僕がよかれと思って
 案内を頼んだんだ。
 あいつを許してやって欲しい。
 こんな事になるなんて、僕も迂闊だったんだ」

計画的だったくせに、と
青年は内心舌打ちを打つ。

「でも、別の男の手に落ちた妻を僕は
 もう愛することは出来ない」

「いやあの、俺、別に手出してないし」

「そんなの分からないじゃないか。
 少なくとも噂が広まってしまった以上
 そう言う目で村人は見るだろう」

その言葉に、青年は思わずため息をつく。

「―――分かりました。
 けじめを付ければ良いんでしょう」

「ほう、ミヤ家の者よ
 どうするつもりだ?」

「今度の狩りで、
 『赤』を仕留めて見せます」

青年は族長に向き直る。

「それでいかがでしょうか?」

「『赤』をだって!!?」

はぁ!?と、族長の孫が驚きの声を上げる。

「それで許せと言うことか?
 だが、そんな約束をして
 覆すことはままならないぞ」

念押しする族長に
青年は続ける。

「ええ、それに、
 俺は罪を許せと言っているんじゃないんです」

「この俺、
 ハヤト・ロ・ミヤが
 狩りを成功させた暁には」

青年―――ハヤトは続ける。

「お孫様の奥方である、規子様を
 俺の嫁としてお迎えしとうございます」

「お前」

族長の孫はバツの悪そうな表情を浮かべる。

「ハヤト・ロ・ミヤよ
 こやつの茶番に付き合うつもりか?」

「………」
「爺様」

聡い族長だ。
孫の行いなどお見通しという訳だ。
今回の呼び出しも、
孫への叱咤を込めてのつもりだったのだろうが

「えぇ、けじめですから」

ハヤトはそれで終わらせるつもりはない。

「良いですよね?
 お孫様―――じゃなかった、
 カナタ・イ・フタミ様」


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