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「山一族と規子」7

2015年09月29日 | T.B.1962年

山一族の狩りの形態は様々だが
ハヤトは馬を使い
単独で狩りを行う。

「で」

馬を止め
ハヤトは後ろを振り返る。

「なんで、お孫様が付いてくるんですか?」

「その呼び方は止めろと言っただろう」

「あー。カナタ様は
 何で付いてきたんですか?」

ハヤトほど馬を使い慣れないカナタが一緒では
いつものペースでは進めない。

「狩りには、鳥が居た方が有利じゃないか」

僕は、仮にもフタミなんだから、と
自分の肩に止まった鳥を見ながらカナタは言う。

「無事に成功した方が良いから?」
「……」

実際にハヤトの願いが通るとも限らないが
そうなれば
予定通り、規子とは別れられるわけだ。

「そうかもしれない。
 でも、お前1人で行かせて
 ケガをされても夢見が悪い」

「一応、ミヤなんで、
 狩りには自信はありますよ」

その、とカナタは言う。

「……悪かったと、思っているんだ」

お前にも、キコにも、と
そう呟く。

「本当にそう思っているのなら
 他にやり方を考えるべきだ」
「え?」
「あんただって
 意図しない結婚だったんだろうが
 それは、お互い様だろう」

ハヤトは敬語で話すのを止めて言う。

「俺の妹は、西に嫁いだ。
 敵対する村で、どうしているだろうか、
 酷い扱いを受けていないだろうか」

―――もしも。

「一人、一族を背負って、帰る事も出来ないのに。
 その村でこんな扱いを受けているのだとしたら
 俺は送り出した自分を憎むよ」
「……っ」

顔をうつむかせたカナタに
ハヤトはため息をつく。
まだ青年とも言い難い年下のカナタに
これ以上あれこれ言うのは気が引ける。

やり方は悪いが
悪いだけの人では無いから余計やりづらい。

「行こう。
 鳥を飛ばしてくれ」

ハヤトの言葉にカナタは鳥を飛ばす。

そもそも、一瞬で色々な事が左右される狩りの場で
仲間割れをしているわけにも行かない。

馬を進ませる。

カナタの鳥が獲物を見つけて鳴く声を頼りに
馬を駆りハヤトが矢を射る。

小さな獲物をいくつか仕留めた所で
沢を見つけ、二人は馬を下りる。

「『赤』は居ないな」
「そう簡単に見つかるとは思っていない。
 そうでなければ
 対価として認められないからな」
「今日は難しい、か」

カナタは落胆とも安堵とも言えない声を出す。
大きな獲物に対峙するのにも慣れていないのだろう。
そもそも、望んだ獲物が簡単に取れるほど
狩りは楽ではない。

少し休憩しようとハヤトは腰を下ろす。
荷から取り出した容器に水を注ぎ
カナタにも渡す。

村から離れて、
もうかなり中腹まで来たが
これ以上奥に進むのは今日は難しい。

狩りに慣れないカナタは疲れている様だし
もうしばらく辺りを回って
引き返した方が良さそうだ。

「ちなみに」

ついでだ、とハヤトは尋ねる。

「そもそも、
 なんで俺が選ばれたんですか?」

自分の妻の浮気相手として。
ああ、とカナタは言う。

「以前キコが言っていたんだ」

何を、と問いかけようとしたところで
ハヤトの馬が何かに反応する。
と同時にカナタの鳥の鳴き声が響く。


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