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「辰樹と媛さん」20

2020年08月21日 | T.B.2020年
 未央子は、胸が熱くなるのを感じる。

「小夜子……」

 辰樹はその様子を見る。

「こんなところにいたの」

 呟く。

「淋しかったでしょ」

 墓場の外れで。
 ただの石、で。

「ばかだなぁ」

 未央子は云う。

「そんなにひとり占めしたかったの」

 未央子は、同じく亡くなっている小夜子の彼を想う。

「ああ、うん」
 辰樹は云う。
「でも、ほら。花が新しいだろう?」

 辰樹は供えてある花を見る。

 まだ真新しい、花。

「誰か、ほかにこの墓を知っている人が供えてくれてるんだと思うよ」
「そう、なの……」
「あのとき、いろんなことがあったからな」

 辰樹が云う。

「やっぱり、誰か、何か、知っているやつがいるってことだ」
「……辰樹も、」
 未央子は、息を吐く。
「あのときは、ずいぶん気丈にしてた、もんね」
「うーん」
「いつもよりも、下の子たちの面倒を見ていたし」
「えー? 俺、いつも面倒見てるよ」
「面倒くさい笑いも、面倒くさいほど、多かったし!」
「それも、いつもじゃん?」
「相方さんを亡くして辛かったの、見え見え」
「…………」
「…………」
「……そっかぁ」
「うん」
「あいつも本当に、」
「うん」
「死んじゃったのかなぁ」

 辰樹は当時の相方を想う。

 未央子は、屈み込む。
 手を合わせる。

 辰樹も、手を合わせる。

「ねえ、これは?」

 未央子は、隣に並ぶ石を云う。
 同じような石。

「それもお墓だよ」
「これも?」
「そ」

 石には、数字が彫られている。
 ただ、生年だけ。

「名まえは彫られてないのね」
「そうなんだよなー」
「いったい……」
「これは媛さんの母親の墓だよ」
「媛さん?」
「えーっと、今護衛を頼まれている」

 汚れた手は服で拭き拭き、を、教えてしまった子である。

「何だか、不思議ね」

 未央子は首を傾げる。

「……ちなみに、その媛さんって何者なのよ?」

「媛さんは、だな……!」

 云いかけて、辰樹は考える。
 宗主様の娘だと、伝えていいのやら。

「あれ、待てよ?」

 宗主様の娘である媛さん。
 の、母親

 つまり、この墓石は、宗主妃の墓……?

「いやいや、嘘だろ?」
「…………?」
「うん、何かの間違いだ!」
「何が?」

 未央子は目を細める。

「とにかく! せっかく来たんだから、水でもあげていこう!」
「そうね」
「よし、待ってろ!」

 辰樹が手を叩く。

「すぐに、水を汲んでくるからな!」
「うん。お願い……」

 辰樹は走り出す。

 と

 未央子は気付く。

 あれ?

 日が落ちて、ここ、めっちゃ暗いんですけど!!
 墓場なんですけど!!
 ひとりで待つの、めっちゃ怖いんですけど!!

「まっ! 辰樹まっっ!!」
「え~?」

 結構、先に進んでいた辰樹が振り返る。

「私も行くっ!!」





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