2022.07.10
今回は、法人が所有する土地を譲渡して、国内にある他の土地に買換えた場合の課税について質問がありましたので解説します。
1.特定の資産の買換えの場合の課税の特例
特定の資産の買換えの場合の課税の特例とは、
①法人が、昭和45年4月1日から令和5年3月31日までの間に、その所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、
②譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合または供する見込みである場合に、
③当該買換資産につき、その圧縮基礎取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の100分の80(または100分の70)に相当する金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を 当該事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法により経理したときに限り、
④その減額し、又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
という租税特別措置法65条の7第1項の規定です。
この規定を簡単にまとめると、法人が特定の要件を満たす資産の買換えをした場合には、譲渡資産の一定の譲渡益は買替資産の取得価額から減額できるので、次に当該買替資産を譲渡する時まで譲渡差益の課税が繰り延べされるということです。
対象となる資産の買換えにはいろいろなパターンがありますが、今回はその中で、長期所有土地等(所有期間が10年を超える土地、建物、構築物等)から国内にある一定の土地(面積が300㎡以上であること)、建物、構築物等への買換えについて解説します。
なお、譲渡資産が、短期所有土地等の譲渡益追加課税制度(措法63)の適用を受ける所有期間が10年以下土地等の譲渡は、元来、特定資産の買換え特例が適用されないのですが、平成10年1月1日から令和5年3月31日までの間に譲渡した土地については短期所有土地に係る追加課税制度が適用されないため、所有期間が10年以下の土地等の譲渡についても特定資産の買換え特例が適用されます。
また、買換えた土地等の面積が譲渡した土地等の面積の5倍を超えるときは、その超える部分については、買換資産に該当しません(措法65の7②、措令39の7⑧)。
さらに、買換資産について特例を適用した場合には、特別償却及び割増償却並びに中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除等の特別税額控除の適用はできません(措法65の7⑦)。
2.圧縮限度額
上記1③の減額できる限度額(圧縮限度額)は以下の計算式で算定します。
圧縮限度額=買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡価額とのいずれか少ない金額×差益割合(注1)×圧縮割合80%(注2)
(注1)差益割合={〔譲渡資産の譲渡価額-(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡に要した経費)〕/譲渡資産の譲渡価額}
(注2)譲渡資産が次の①②の区域内にある資産に該当し、かつ、買換資産が航空機騒音障害区域以外の地域内にある資産に該当する場合の圧縮割合は、70%とされます。
①令和2年4月1日前に特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法に規定する航空機騒音障害防止特別地区又は公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律の第二種区域となった区域
②防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の第二種区域
ただし、地域再生法の集中地域以外の地域内にある資産を譲渡し、かつ、集中地域内にある資産を取得した場合の圧縮割合は、75%(一定の集中地域内にある資産を取得した場合には70%)とされます(措法65の7⑭)。
3.前事業年度に先行取得した場合
譲渡資産の譲渡の日を含む事業年度開始の日前1年以内に取得した資産(先行取得資産)でその取得の日を含む事業年度終了の日の翌日から2月以内に、買換特例の適用を受ける旨等を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出した場合のその届出に係る資産についても買換資産としてこの特例の適用があります(措法65の7③、措令39の7⑩)。
また、工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びにその工場等の建設及び移転に要する期間が1年を超えると認められる事情がある場合には、買換資産は、譲渡資産の譲渡の日を含む事業年度開始の前3年以内に取得したものについても適用があります(措令39の7⑨)。
4.翌事業年度以降に取得した場合
法人が、特定の資産の譲渡をした場合において、その買換資産をその譲渡の日を含む事業年度中に取得せず、その事業年度の翌事業年度開始の日から1年以内に買換資産を取得し、その取得した日から1年以内に事業の用に供する見込みであるときは、次の算式によって計算した金額以下の金額を特別勘定として経理することにより、その金額を譲渡の日を含む事業年度の損金に算入できます(措法65の8①⑦)。
特別勘定繰入額=譲渡代価のうち買換資産の取得に充てようとする金額×差益割合×圧縮割合
取得指定期間は、工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びにその工場等の建設及び移転に要する期間が1年を超えると認められる特別の事情があるときは、譲渡の日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から3年以内で税務署長が認定した日までとなります(措法65の8①)。
5.益金算入
特別勘定を設けている場合において、買換資産を所定の期間内に取得したときは、買換資産について「譲渡資産の譲渡対価のうち買換資産の取得に充てた金額に差益割合を乗じた金額の圧縮割合に相当する金額」の範囲内で損金算入(圧縮記帳)ができますが、特別勘定として経理した金額のうち「買換資産の取得に充てた金額に差益割合を乗じて計算した金額の圧縮割合に相当する金額」を買換資産の取得をした事業年度の益金に算入しなければなりません(措法65の8⑦⑨、措令39の7○37)。
特別勘定を設けている法人が、買換資産を特定資産の譲渡の日を含む事業年度終了の日の翌日から1年以内(税務署長の承認を受けている場合には、その承認を受けた日)に取得しなかった場合には、その特別勘定を取り崩して益金に算入しなければなりません(措法65の8⑫)。
買換資産を圧縮記帳した場合において、その買換資産を取得後1年以内に法人の事業の用に供さない場合又は供さなくなった場合には、その取得後1年を経過する日(その前日までに事業の用に供さなくなった場合には、その供さなくなった日)を含む事業年度に、その圧縮額を益金に算入しなければなりません(措法65の7④、65の8⑭)。
(完)
今回は、法人が所有する土地を譲渡して、国内にある他の土地に買換えた場合の課税について質問がありましたので解説します。
1.特定の資産の買換えの場合の課税の特例
特定の資産の買換えの場合の課税の特例とは、
①法人が、昭和45年4月1日から令和5年3月31日までの間に、その所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、
②譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合または供する見込みである場合に、
③当該買換資産につき、その圧縮基礎取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の100分の80(または100分の70)に相当する金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を 当該事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法により経理したときに限り、
④その減額し、又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
という租税特別措置法65条の7第1項の規定です。
この規定を簡単にまとめると、法人が特定の要件を満たす資産の買換えをした場合には、譲渡資産の一定の譲渡益は買替資産の取得価額から減額できるので、次に当該買替資産を譲渡する時まで譲渡差益の課税が繰り延べされるということです。
対象となる資産の買換えにはいろいろなパターンがありますが、今回はその中で、長期所有土地等(所有期間が10年を超える土地、建物、構築物等)から国内にある一定の土地(面積が300㎡以上であること)、建物、構築物等への買換えについて解説します。
なお、譲渡資産が、短期所有土地等の譲渡益追加課税制度(措法63)の適用を受ける所有期間が10年以下土地等の譲渡は、元来、特定資産の買換え特例が適用されないのですが、平成10年1月1日から令和5年3月31日までの間に譲渡した土地については短期所有土地に係る追加課税制度が適用されないため、所有期間が10年以下の土地等の譲渡についても特定資産の買換え特例が適用されます。
また、買換えた土地等の面積が譲渡した土地等の面積の5倍を超えるときは、その超える部分については、買換資産に該当しません(措法65の7②、措令39の7⑧)。
さらに、買換資産について特例を適用した場合には、特別償却及び割増償却並びに中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除等の特別税額控除の適用はできません(措法65の7⑦)。
2.圧縮限度額
上記1③の減額できる限度額(圧縮限度額)は以下の計算式で算定します。
圧縮限度額=買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡価額とのいずれか少ない金額×差益割合(注1)×圧縮割合80%(注2)
(注1)差益割合={〔譲渡資産の譲渡価額-(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡に要した経費)〕/譲渡資産の譲渡価額}
(注2)譲渡資産が次の①②の区域内にある資産に該当し、かつ、買換資産が航空機騒音障害区域以外の地域内にある資産に該当する場合の圧縮割合は、70%とされます。
①令和2年4月1日前に特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法に規定する航空機騒音障害防止特別地区又は公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律の第二種区域となった区域
②防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の第二種区域
ただし、地域再生法の集中地域以外の地域内にある資産を譲渡し、かつ、集中地域内にある資産を取得した場合の圧縮割合は、75%(一定の集中地域内にある資産を取得した場合には70%)とされます(措法65の7⑭)。
3.前事業年度に先行取得した場合
譲渡資産の譲渡の日を含む事業年度開始の日前1年以内に取得した資産(先行取得資産)でその取得の日を含む事業年度終了の日の翌日から2月以内に、買換特例の適用を受ける旨等を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出した場合のその届出に係る資産についても買換資産としてこの特例の適用があります(措法65の7③、措令39の7⑩)。
また、工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びにその工場等の建設及び移転に要する期間が1年を超えると認められる事情がある場合には、買換資産は、譲渡資産の譲渡の日を含む事業年度開始の前3年以内に取得したものについても適用があります(措令39の7⑨)。
4.翌事業年度以降に取得した場合
法人が、特定の資産の譲渡をした場合において、その買換資産をその譲渡の日を含む事業年度中に取得せず、その事業年度の翌事業年度開始の日から1年以内に買換資産を取得し、その取得した日から1年以内に事業の用に供する見込みであるときは、次の算式によって計算した金額以下の金額を特別勘定として経理することにより、その金額を譲渡の日を含む事業年度の損金に算入できます(措法65の8①⑦)。
特別勘定繰入額=譲渡代価のうち買換資産の取得に充てようとする金額×差益割合×圧縮割合
取得指定期間は、工場、事務所その他の建物、構築物又は機械及び装置の敷地の用に供するための宅地の造成並びにその工場等の建設及び移転に要する期間が1年を超えると認められる特別の事情があるときは、譲渡の日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から3年以内で税務署長が認定した日までとなります(措法65の8①)。
5.益金算入
特別勘定を設けている場合において、買換資産を所定の期間内に取得したときは、買換資産について「譲渡資産の譲渡対価のうち買換資産の取得に充てた金額に差益割合を乗じた金額の圧縮割合に相当する金額」の範囲内で損金算入(圧縮記帳)ができますが、特別勘定として経理した金額のうち「買換資産の取得に充てた金額に差益割合を乗じて計算した金額の圧縮割合に相当する金額」を買換資産の取得をした事業年度の益金に算入しなければなりません(措法65の8⑦⑨、措令39の7○37)。
特別勘定を設けている法人が、買換資産を特定資産の譲渡の日を含む事業年度終了の日の翌日から1年以内(税務署長の承認を受けている場合には、その承認を受けた日)に取得しなかった場合には、その特別勘定を取り崩して益金に算入しなければなりません(措法65の8⑫)。
買換資産を圧縮記帳した場合において、その買換資産を取得後1年以内に法人の事業の用に供さない場合又は供さなくなった場合には、その取得後1年を経過する日(その前日までに事業の用に供さなくなった場合には、その供さなくなった日)を含む事業年度に、その圧縮額を益金に算入しなければなりません(措法65の7④、65の8⑭)。
(完)