そんなに見ないで

小学生の時、学校での歯の検査で治療を指示され、家の近くの歯医者へ同じく治療指示された弟と行った。
消毒臭い待合室で恐ろしさに耐えて、じっと待つ二人に聞こえるのは、あの「ウィ---ン」という不気味な音と子供の泣き声。そして叱る母親の声。
弟と目が合った瞬間、どちらからともなく立ち上がり 歯科医院から逃亡した。

以来、歯医者は死ぬほど怖い。
どうにも我慢できずに、通ったのは過去に数回だけ。
抜歯の時の麻酔の注射は、顎を突き抜けて針先が別な所から出てくるのではと思う程、グイグイ何度も刺された。
恐怖で失神しそうになりながら・・・・・椅子の手摺を握りしめ「俺は男の子、怖くない 怖くない」と念仏のように繰り返した。
弘法大師もイエスキリストも総動員して治療が少しでも早く終わることを祈った。

その歯医者嫌いの子供も 時が過ぎて おっさんになった。
息子が通った 市内の鶴野にあるK歯科クリニック・・・・・「全然痛くなかったよ」(ホントか?)
私も行って来ようっと とお母さん・・・・・「若くてイケメンの先生が丁寧で優しくて」(ホントか?)
そして、ついに 自分の番が来た。被せていた冠が取れたのだ。

ドキ ドキ ドキ ドキ・・・・・(俺はもうおっさんだ、怖くない 怖くない)

しかし、何と云うことでしょう・・・・・リホーム番組のように

優しく細かい説明をしてくれる先生と可愛い歯科衛生士さんの柔らかい丁寧な指先に強張っていた気持ちが解れていった。
麻酔の注射だって・・・・・針が細いのか平気だった(ホントだって)
何と云っても、先生が威張っていないのが良い。
職員に指示する時にも 優しく「お願いします」・・・・・何と気持ちが良いこと。
だから、職員が皆 笑顔で気持ち良く働いているし 患者も変に緊張しない。

それから、半年に1度程の定期検診(ハガキが来る)
笑顔に迎えられて治療台へ座ったが、何でも検診の内容が少し変わって口の中の写真(歯茎を中心に)を撮るとのこと。
プラスチックの器具を口の両端へ入れて 思いっきり引っ張るように言われた。(ゲゲゲ・・・・・マジ)



その状態で口を開けたり閉めたり、左右を向いたり。
歯科衛生士さんが、最接近して一眼レフで口の中をバチャバチャと撮っていく。
これは、何故か とっても恥ずかしい。
(お願いだから、そんなに見ないで)