78年目の終戦記念日である。
日々に追われてそんなこともすっかり忘れていたが
深夜にトイレ起きるとつけっぱなしのテレビで
懐かしい美術館の映像が流れていた。
このブログで何度も紹介したからご存じかも知れないが
その名も「無言館」という小さな美術館だ。
信州は上田市の郊外
塩田平の高台に建つ私設の美術館だ。
この地で信濃デッサン館を主宰する作家の窪島誠一郎氏が
戦没画学生たちのために建てた慰霊美術館である。
展示してある絵は戦死した画学生たちの遺作ばかりを集めた
もの言わぬ美術館、すなわち無言館である。
真夏でもひんやりとした空気が漂う館内。
その静寂の中、モノ言わぬ「遺作」たちが私たちを迎えてくれる。
東京芸術大学を中心とした若き画学生たちの作品の数々。
享年27歳、享年23歳、享年29歳・・・
最年長でも30歳になったばかりで、年齢を見ているだけで胸がつまる。
私が戦没学生の手記「きけわだつみのこえ」を読んだのは
確か高校生になった夏休みだったろうか。
その痛ましい手記のリアルに大きなショッックを受け
大いに感銘もした私だったが
手記ではなく一枚の絵を残した学生も多かったのである。
数多い自画像に混じって、女性を描いた作品が目立つ。
母親、姉や妹、恋人、そして妻・・・
誰もが万感の思いで「愛する人たち」を絵筆に描きとめた。
学生だけにまだ未熟な作品も多いのだが
そうした芸術的な価値観とは全く別次元の「真情」があふれている。
私は何度も絵の前で涙があふれそうになった。
美術館の中庭には「記憶のパレット」と名づけられた
大理石造りのモニュメントがある。
戦没画学生の名前とともに授業風景の写真が刷り込まれている。
見るところデッサンの授業だろうか。
学生たちはそれぞれイーゼルを立て創作に励んでいる。
実に平和で満ち足りた時間が流れている。
何よりも絵が好きで
絵で身を立てることを夢見る若者も多かった筈なのに・・・
つくづく戦争とは残酷で無慈悲なものだと思う。
私はこの美術館の静寂とモノ言わぬ絵たちの想念に惹かれ
もう三度も塩田平の地を訪れている。
館長の窪島誠一郎氏の言葉が印象的だ。
戦後78年が経ったいまも
戦争の「憎しみ」は消えていないような気がする。
戦争は依然として地上の現実であるし
新たな戦争がまた新たな「憎しみ」を増幅させている。
加害者や被害者という怨念をこえて
あらためて「一枚の絵を守る」意味を考えたいと思う。