まろの陽だまりブログ

顔が強面だから
せめて心だけでもやさしい
陽だまりのような人間でありたいと思います。

『錦繍』

2022年11月06日 | 日記

今年もまた読んでしまいました。
紅葉の時期が来ると決まって思い出して
本棚から懐かしい文庫本を手に取るのです。
宮本輝の短編小説「錦繍」です。
錦繍とは色とりどりの美しい刺繍をほどこした織物のことで
よく鮮やかな紅葉ににたとえられます。

前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で
   まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。
   私は驚きのあまり、ドッコ沼の降り口に辿り着くまでの二十分間
   言葉を忘れてしまったような状態になったくらいでございます。

そんな書き出しで始まる「錦繍」は
かつて夫婦だった男女が交わす14通の手紙からなる
往復書簡形式の小説です。
離婚してから10年後・・
別れるきっかけとなったある「事件」について
そして、その後の10年間の二人の人生が
手紙という形で丹念に美しい文章で語られていきます。
今やメール全盛の時代で手紙を書くことこともめっきりも少なくなりました。
最近は友だちや家族どうしの会話もLINEになって
要件だけの短くて味気ない文章が際限なくドンドンと増えて来ました。
そういった意味ではこの小説は貴重かもしれません。

錦繍』の後半にこんな一説があります。

      いつもは達筆なあなたの字が、細かく震えて
      最後に行くに従って奇妙に崩れたり歪んだりしているのを見て
      私は長い間足を向けなかった駅裏の安酒場のカウンターに坐り
      閉店の時間までひとりで酒を飲みつづけました

私の好きな文章ですが・・
相手の微妙な「字」の変化を見て激しく心を揺さぶられるなんて
手紙ならではで、メールではこうは行きませんよね。
宮本輝がこの「錦繍」を書いたのは30年以上も前ですから
携帯電話の「け」の字もメールの「メ」の字もなかった時代ですねえ。
偉そうなことを言うつもりはありませんが
あの頃はまだ手紙でしか書けない「切実」なことがあったような
そんな気がしてなりません。



小説の舞台である蔵王へは一度だけ訪れたことがあります。
残念ながら取材のつでだったので時間もなく
季節も紅葉の頃ではなく夏の真っ盛りでしたが
ロープウエイのゴンドラに揺られながら
蔵王の雄大な風景にこの小説の一文を思い出していました。
蔵王はもう初雪の降る頃でしょうか。


色ずく団地

2022年11月06日 | 日記

団地のイチョウ並木がもう黄色一色です。
いや、金色一色と言うか・・・
無機質なコンクリートジャングルの団地ですが
この季節だけはコントラストが鮮やかで
味わい深いですねえ。

しがないウサギ小屋暮らしとは言え
公園や街路樹のイチョウが一斉に色づく様子は圧巻で
団地暮らし捨てたものではありません。
この街に住んでもうかれこれ20年でしょうか。
団地で生まれて団地で育った息子は
この街がもう故郷です。

久しぶりのローアングルショット。
カメラを構えている間にも金色の葉がひとひら
またひとひらと散り落ちてきます。
ついあの有名なの歌を思い出して口ずさみます。

   金色の ちひさき鳥のかたちして

     銀杏ちるにり 夕日の岡に (与謝野晶子)

うつぶせでカメラを構えていたら
腰が痛くて立てなくなってしまいました。(笑)