図書館の返却本のコーナーで目に止まりました。
へえ、今どきこんな古い小説を読む人もいるんだなあと思い
懐かしさで思わず手に取りました。
こんな古い小説・・・は失礼かも知れません。
ノーベル文学賞に輝く、かの文豪の不朽の名作ですねえ。
確か中学生の頃に読んだ気がしているのですが
もうすっかり忘れていました。
短篇小説だった記憶はあるのですが
こんなに短いとは思わず、昼休みに一気に読了でした。
主人公の一高生がたまたま旅をした伊豆で
旅芸人の一座とめぐり逢い踊り子にほのかな恋ごころを抱く話でした。
道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、
雨脚が杉の密林を染めながら、すさまじい早さで麓から私を追ってきた。
けだし名文ですねえ。
高等学校の制帽をかぶり、絣の着物にはかま姿。
高下駄で天城峠を登る主人公の凛々しい横顔が目に浮かびます。
やがて彼は旅芸人一座と知り合い一緒に旅をすることになるのですが
その中の美しく可憐な少女にいつしか心を惹かれます。
踊り子の名前は「薫」と言いました。
そうそう、少女の名は忘れもしません薫でした。
かつては田中絹代さんが
後には吉永小百合さんや山口百恵ちゃんが演じた
あの美しい純真無垢の少女ですねえ。
修善寺、湯ヶ島、天城峠・・・
伊豆の自然風景が旅情たっぷりに描かれていて
その中で芽生えた踊り子へのほのかな恋情にオジサンもときめきます。
主人公の学生さんはいわば川端康成の分身で
心に青春らしい孤独と懊悩をかかえて旅していますが
踊り子の純真無垢な精神性に触れて
つかの間、心が解き放たれるような解放感にひたります。
同じように心に鬱屈を抱えているオジサンも
久々に日々のわずらわしさを忘れるような爽やかな小説でした。
この年になって「伊豆の踊子」を読むなんて・・・