NHK「BS世界のドキュメンタリー」枠で放送された、『カーター大統領の“ソーラーパネル”を追って』(スイスAtelier Hemauer / Keller 制作、2011年)を観る。
ジミー・カーター米大統領(任期1977-81年)。1979年に、再生可能エネルギーの推進策を協力に打ち出す。その背景には、同年のイラン革命、第二次石油ショック、ソ連のアフガニスタン侵攻により、中東への石油依存を解消しなければならないという脅威があった。また、やはり1979年にはスリーマイル島事故が起こり、カーター政権は、なおさら、化石燃料依存を問題視した。
そのシンボルとして宣伝したのが、ホワイトハウスの屋根に取り付けた太陽熱温水器だった(もちろん、PVどころか、現在の太陽熱発電とは異なる、初歩的なエネルギー転換装置である)。度重なる国民への呼びかけにもよらず、その息苦しさが国民の人気を失うことになり、大量消費と発展を「強いアメリカ」の象徴として掲げるレーガンに大統領の座を明け渡すこととなった。まさに、原題にあるように、再生可能エネルギー推進は「選ばれなかった道」なのだった。
そして、太陽熱温水器は1986年に撤去され、メーン州の大学の倉庫にひっそりと保管された。番組は、それが、最終的に「選ばれなかった道」の象徴として、スミソニアン博物館に引き取られるところまでを追っている。
この悲劇について、ダニエル・ヤーギン『探求』(>> リンク)がシニカルに表現している。
「温かみのない口調、悲観主義、道義の悪化と犠牲を強調する言葉、恒常的な品不足の予想―――こうしたことが、非常に複雑な遺産を残した。数十年後、ホワイトハウスのとなりの旧大統領府ビルのなかを歩いていた上級エネルギー顧問が、つぶやいた。「この廊下は、いまだにジミー・カーターのカーディガンの亡霊が出没するんだ」」
なんだか、最近の民主党から自民党への政権再交代の悲劇をみるようだ。もちろん、今では、ミニ・レーガンなど登場すべきではない。そういえば、レーガンも「レーガノミクス」を標榜していた(奇妙に重なって見えてしまうのは嫌なことだ)。番組には、太陽熱温水器の新聞記事を書いた記者が登場し、やはりシニカルに言ってのける―――「モーゼの十戒には、11番目に、<アメリカ人は燃料を我慢せず使わなければならない>と書いてあったんだよ」と。
番組では、カーターが、その追い詰められたようなテレビ演説において、省エネ推進を訴えかけるため、「You know we can do it.」と表現している場面がある。そうか、オバマ大統領の「Yes, we can」は、後ろ向きから前向きへの戦略転換だったのか。
再生可能エネルギーに関しては、もちろん、状況が今と30年前とでは大きく異なる。ダニエル・ヤーギン『探求』では、1981年にエクソンが太陽熱ビジネスをコスト性の問題から売却し、他の大手企業も同調したことが書かれている。今は違う。
このようなドキュメンタリーを、スミソニアン博物館の収蔵同様に、「選ばれなかった道」の教訓を示すものとして、どこかで広く上映してほしい。
●参照
○ダニエル・ヤーギン『探求』
○小野善康『エネルギー転換の経済効果』
○吉田文和『グリーン・エコノミー』
○『グリーン資本主義』、『グリーン・ニューディール』