Sightsong

自縄自縛日記

『宮沢賢治コレクション2 注文の多い料理店』

2017-02-17 21:43:16 | 東北・中部

『宮沢賢治コレクション2 注文の多い料理店』(筑摩書房)を読む。

どこかで筒井康隆が書いていたと記憶しているのだが、「注文の多い料理店」における、「二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。」という表現の際立った肉感性。ルイス・ブニュエルを思い出すまでもなく、食べることはエロチックであり、食べられるとなればなおさらである。しかも、大の男ふたりが、である。「一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。」というラストシーンも、滑稽であり、かつ怖ろしくもあり、宮沢賢治の凄さを感じざるを得ない。

ところで、面白いことに、他の短編でも賢治は同じような表現を使っていることに気が付いた。大傑作「寓話 猫の事務所」でも、みんなに厭われている「かま猫」(寒くてかまの中で寝るからである)も、足を腫らしてしまい「泣いて泣いて泣きました」。「朝に就ての寓話的構図」では、蟻の子供たちが「笑って笑って笑います」。否応なく喜怒哀楽の心を持ち上げてくれる、たいへんな力である。それでも泣く5連発の「注文の多い料理店」の破壊力がいちばんである。

人びとと森とが当然のように呼応する「狼森と笊森、盗森」。夜中の透明感ある夢のような「鹿踊りのはじまり」。電信柱などに人格を持たせおおせた「シグナルとシグナレス」。静かにウットリと語るだけになおさら怖ろしい「オツベルと象」。音が聴こえるようで、齋藤徹さんがバッハを弾いていたときにその風景とシンクロした「ざしき童子のはなし」。つげ義春が描く辺境のような「泉ある家」。

少年時代に読んだもの、最近思い出したように読んだもの、はじめて触れるものなどがある。そのどれもが味わい深く、ときにギョッとさせられ、またときにほうとため息を吐かされる。

●宮沢賢治
『宮沢賢治コレクション1 銀河鉄道の夜』
横田庄一郎『チェロと宮沢賢治』
ジョバンニは、「もう咽喉いっぱい泣き出しました」
6輌編成で彼岸と此岸とを行き来する銀河鉄道 畑山博『「銀河鉄道の夜」探検ブック』
小森陽一『ことばの力 平和の力』
吉本隆明のざっくり感


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