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自縄自縛日記

金成隆一『記者、ラストベルトに住む』

2018-12-23 12:11:41 | 北米

金成隆一『記者、ラストベルトに住む トランプ王国、冷めぬ熱狂』(朝日新聞出版、2018年)を読む。

金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』は、なぜ「理知的」に判断してもあり得ない結果であったはずのトランプ大統領誕生が起きたのか、その実態を示してくれる良書だった。本書はその続編である。著者は地殻変動が起きたラストベルトに住み、トランプを支持した住民たちのナマの声を拾い上げている。

ラストベルトの「ラスト」とは、「最後」ではなく「サビ」である。すなわち、石炭や鉄鋼や重工業に代表される産業が「サビついた」地域のことであり、主に五大湖周辺。共和党支持なら中南部だろうという見立ては、もはや過去のものになっている。「労働者は民主党」「富裕層は共和党」から、「棄てられた労働者は共和党」「富裕層は民主党」へとシフトしているのである。

かれらは仕事を失い、何とか働き口を見つけたとしてもたいへんな低賃金。その絶望が、都会の富裕な白人(ヒラリー・クリントンに象徴されるような)や、自分たちの仕事を奪う者としての移民に向けられてきた。また薬物依存に向かった。そして、マイノリティ尊重やポリティカル・コレクトネスや環境保護を「やり過ぎ」だと見なす風潮を生んだ。

本書を読んでわかるのは、「トランプ祭り」が終わっても、その空気はさほど変わってはいないということである。住民をとりまく状況はかんたんに変わりはしないのだから当然とも言える。一方ではトランプへの幻滅も出てきている。登場する人たちの声はリアルだ。

とは言え、本書が示唆している通り、これが続くわけではない。アメリカにおいては、2045年には非白人が人口の過半数を占めるようになる。しかしヒスパニック層を取り込もうとしたジェブ・ブッシュはレースから脱落した。共和党は見棄てられた白人層を取り込み、保守からカルトへと右に振れ切った。それに伴い、極端な排外主義の活動を行う団体もまた出てきている。中間選挙は微妙な結果となった。解はなかなか見えない。まさに同時代または近未来の日本である。

本書には、トランプ政権への抗議デモでよく使われたという、マヤ・アンジェロウの印象的な詩が紹介されている。

あなたの言葉で私を撃てばよい/
視線で私を切りつければよい/
憎しみで私を殺せばよい/
それでも私は立ち上がる、空気のように

You may shoot me with your words,/
You may cut me with your eyes,/
You may kill me with your hatefulness,/
But still, like air, I'll rise.

●参照
吉見俊哉『トランプのアメリカに住む』(2018年)
貴堂嘉之『移民国家アメリカの歴史』(2018年)
金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』(2017年)
渡辺将人『アメリカ政治の壁』(2016年)
四方田犬彦『ニューヨークより不思議』(1987、2015年)
佐藤学さん講演「米国政治の内側から考えるTPP・集団的自衛権―オバマ政権のアジア政策とジレンマ」(2014年)
室謙二『非アメリカを生きる』(2012年)
成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』を読む(2009年)
鎌田遵『ネイティブ・アメリカン』(2009年)
尾崎哲夫『英単語500でわかる現代アメリカ』(2008年)
吉見俊哉『親米と反米』(2007年)
上岡伸雄『ニューヨークを読む』(2004年)
亀井俊介『ニューヨーク』(2002年)


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