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自縄自縛日記

金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』

2018-05-29 15:57:18 | 北米

金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』(岩波新書、2017年)を読む。

本書は、2016年のアメリカ大統領選の前に、都市部ではない地域の住民の声を集めたものである。

前回2012年の共和党ロムニー候補が負けて、今回トランプが勝った州は6つあった。そのうちフロリダを除く5州(オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アイオワ)は、五大湖周辺の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」に重なっていた。その一帯の労働者たちは、鉄鋼などの工場で仕事をし、労働組合にも属し、もともと民主党が強かった。

しかし、かれらはトランプを支持した。それは、古き良きアメリカが去ってしまい、ミドルクラスから没落し(毎年家族で長期旅行するなど)、脱出もできない不安が転化したからであった。その不安をすくい上げての仮想敵が、オバマケアであり、海外との自由貿易であり、安い賃金で働く移民たちなのだった。

著者が指摘するように、自由貿易によりかれらは安い製品を買うこともできていたし、移民たちが不法に入ってきた者であっても納税して財政に貢献していることは証明されている。また、産業構造の変化はやむを得ないことだった。雇用が減ったのはオートメーション化のためでもあり、一方で、働くほうもかつてのように誰でもできる手段で良い生活を送ることなどできない時代になっている。

トランプは実際に実施可能な手段を示さず、仮想敵を作り、シンプルなメッセージを出し続けた。それが奏功した。仮想敵という点では、富裕層や企業からオカネを得ているエスタブリッシュメントへの反感も、かなり住民に浸透していたという。(その意味では、リベラルのオキュパイ運動とも皮肉なことに批判対象が同じわけである。)

アパラチア山脈添いのケンタッキー州など、もともと共和党支持者が多い地域では、やはり住民はトランプを支持した。石炭産業は没落し、環境面から目の敵にされ、山の中で「時代遅れ」の地域だった。ここの「置き去りにされた人びと」の不満も激しい。

すなわち、何もこれらの地域住民がトランプの発する非民主主義的な傾向やヘイトスピーチに鈍感であったからではない。かれらは生活を脅かされていたから変革を求めた。自由貿易や移民や産業構造の変化に関する理解不足を指摘するのは、仮にそれが正しいことであっても、都市の勝ち組の視線であり、民主党もそちら側から脱却できなかったということである。

愚かなトランプだけを視ていては、ことは改善しない。これは日本についても言えることに違いない。


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