Sightsong

自縄自縛日記

室謙二『非アメリカを生きる』

2012-12-15 09:07:20 | 北米

札幌への行き帰りに、室謙二『非アメリカを生きる ―<複数文化>の国で』(岩波新書、2012年)を読む。

20世紀初頭にひょっこりと現れたネイティブアメリカンの男。スペイン市民戦争に大義を抱いて参加した米国人やひとりだけの日本人。マイルス・デイヴィス。仏教を自らのものとしたジャック・ケルアックゲイリー・スナイダーなどのビートニクス。米国に生きるユダヤ人。

その誰もが、<非アメリカ>的でありながら、<アメリカ>を形成する。

フランコ将軍の軍部に蹂躙されつつあったスペインへは、他の西欧諸国も、米国も、市民の渡航を禁じた。いかにファシズムが台頭しようとも、共産主義が力をつけてくるのを嫌ったためだった。その状況下で、イデオロギー的な知識や戦争のノウハウが皆無でも、正義と理想に駆り立てられて密航した人々がいた。このことは、<個>を信じて再び声をあげるいまの状況に似ているのかもしれない。

マイルス・デイヴィスは、自らが黒人であることを強烈に主張しながら、民族や音楽のジャンルの壁を壊し続けた。

ビートニクスたちが解釈し、実践した<禅>は、真似でも紛い物でもなかった。著者はこう言う。日本に生れて体制や伝統に組み込まれている仏教を近くに感じていたからといって、その者が真の仏教の中に在るということにはならない。日本の仏教は、戦争に加担さえしていた。米国の仏教は、デモクラシーの仏教である。このような伝播こそ、仏教の伝統である―――と。真っ当な主張である。

面白い指摘がある。2011年7月の調査によると、米国では、1歳未満の幼児における非白人(ヒスパニック、黒人、アジア人など)の比率が、はじめて白人の比率を超えたのだという。将来、確実に米国は、マジョリティのない複数民族国家となる。

政治やネイションの言説に絡め取られるのではなく、さまざまな声を聴きとろうということだ。

●参照
尾崎哲夫『英単語500でわかる現代アメリカ』
吉見俊哉『親米と反米』
成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』を読む
スペイン市民戦争がいまにつながる
ギレルモ・デル・トロ『パンズ・ラビリンス』(スペイン市民戦争)
マイルス・デイヴィスの1964年日本ライヴと魔人


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