Sightsong

自縄自縛日記

四方田犬彦『ニューヨークより不思議』

2015-08-01 08:29:19 | 北米

四方田犬彦『ニューヨークより不思議』(河出文庫、1987、2015年)を読む。

Stranger than New York なものは Strangers in New York。かつては「人種の坩堝」などと表現された地だが、実際のところ、それは決してメルティング・ポットなどではない。世界のあちこちから集まった者たちはニューヨークという物語に回収されることはないのだということが、このエッセイを読んでいると実感できる。スノッブ先生によるスノビズムが溢れた記録、とても面白い。

著者は1987年と今年の2005年にニューヨークに滞在し、流れてくる文化を単に受容するのではなく、探索と交遊によって新たな視点を獲得した。その対象は、韓国や台湾や中国や日本から来た、あるいは、キューバから亡命してきたアーティストたちであった。名を残した人もそうでない人もいる。オーネット・コールマン、ドン・チェリー、ラシッド・アリのようなジャズのアイコンたちも登場する。

今年、グッゲンハイム美術館では河原温の大規模な回顧展が開かれた。わたしはこのコンセプチュアル・アートの大家について過去の人だとしか思われず足も運ばなかったのだが、ここに書いてある河原温のどうしようもない過激さを読んでいると、そんな表層的な判断をしていないで、かれの生涯をかけた執念を多少なりとも受け止めに行くべきであったかと反省する。すべてのstranger はstrange なものなのだ。

マンハッタンは不思議な街である。基本的に丁目 street と番街 avenue とによって整然と分割され、まず道に迷うことはない(エドガー・アラン・ポーが住んだ家を訪ねて200丁目を超えると、空気の薄さに眩暈がするのではないかと思ったとするくだりには笑った)。だが、後からやってきた者たちによるそのような隠蔽は、いまだ、綻びを残している。碁盤目のなかで奇妙に通りが交錯するアスター・プレイスは異なる先住民どうしが交流する場であり、碁盤目を斜めに突っ切るブロードウェイは先住民の道路であった。ブロードウェイの南端かつマンハッタン島の南端にある公園ボウリング・グリーンに面して、国立アメリカ・インディアン博物館が建てられたのも偶然ではないのだろう。

●参照
四方田犬彦『マルクスの三つの顔』
四方田犬彦・晏[女尼]編『ポスト満洲映画論』
四方田犬彦『ソウルの風景』
四方田犬彦『星とともに走る』
亀井俊介『ニューヨーク』
上岡伸雄『ニューヨークを読む』
千住博、野地秩嘉『ニューヨーク美術案内』
鎌田遵『ネイティブ・アメリカン』
2014年6月、ニューヨーク(1) ミッドタウン
2014年6月、ニューヨーク(2) メトロ
2014年6月、ニューヨーク(3) イースト・ヴィレッジ
2014年6月、ニューヨーク(4) ハーレム
2014年6月、ニューヨーク(5) ブルックリン
2014年6月、ニューヨーク(6) 世界貿易センター
2014年6月、ニューヨーク(7) 自由の女神とエリス島
2014年7月、ニューヨーク(8) チェルシー
チャーリー・パーカーが住んだ家
アンディ・ウォーホルのファクトリー跡
2015年4月、ニューヨーク
「ニューヨーク、冬の終わりのライヴ日記」 
ニューヨークの麺
ニューヨークのハンバーガー、とか


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