Sightsong

自縄自縛日記

成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』を読む

2009-02-09 21:21:34 | 北米

インターネット新聞JANJANに、成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』(金曜日、2009年)の感想を寄稿した。

『オバマの危険 新政権の隠された本性』の感想

 バラク・オバマが、米国新大統領に就任した。米国内での支持率は高く、また日本での盛り上がり様は尋常ではない。あの、ろくでもない前任者が去ったことによる期待は大きいのだろう。はじめての黒人大統領だという意義も小さくない。

 一方で、少なからぬ人が、ここにイメージ戦略の構図を見出すはずだ。私には、小泉元首相に代表される劇場型政治にも被って見える。当然だが、成果をなにひとつあげていない段階で持ち上げることにあまり意味はない。「チェンジ」ということばを引用するのは後でもよい。

 私がオバマの公約のなかでもっとも違和感を覚えたものは、イラクからの撤退とひきかえにアフガニスタンに増派するという点だ。結局、まだ、米国は軍事産業と手を切ることなどできないのだ。

 本書は、軍事国家としての内実を明らかにしようとする。それによると、オバマの発言、企業からの多額の献金、好戦派の多い閣僚人事などを見ていくなら、軍産複合体と一体化した政治の形については、これまでと何ら変わるところはまったくないという。

 実際に、米国の軍事予算を見ると、そのいびつな強大ぶりが明らかになる。2007年の軍事費は52.5兆円(5,783億ドル)であり、GDPの4%程度を占める(日本は1%程度)。他国の同年の軍事費と比較してみれば、日本4.8兆円、ロシア3.0兆円、韓国1.6兆円、中国6.7兆円、インド2.2兆円、イラン0.8兆円、イスラエル1.3兆円、カナダ1.4兆円、フランス5.1兆円、ドイツ3.6兆円、英国4.7兆円といったところだ(
ストックホルム国際平和研究所データベースによる。現在の為替レートで換算)。文字通り、他国を圧倒する軍事力である。この力を行使する対象を見つけ続けなければならないわけだ。

 本書では、イラクからの撤退さえも骨抜きになるのではないかと危惧している。経済危機もさることながら、まず私たちが注視しなければならないのはここだろう。さらには、米国の軍事戦略に日本がいかに関わっていくべきかを決めるのは、オバマ政権の方向性などではなく、こちら側の私たち有権者であることは忘れてはならないと思う。ただ、日本でも米国のような二大政党に近くなり、少数者の意見がますます顧みられないようになってきている。本書でも、大統領選で、「資金が少ない候補者の声」が反映されない実態を報告している。二大政党の中身が同じ場合に国が危険な方へ進んで行くことは、両国で共通している。

 本書のひっかかる点は、記述が具体的である一方、「ユダヤ・ロビー」や「9.11」などを巡る陰謀論的な考え方が見え隠れすることだ。ただ、カリスマを多くの人が礼賛するなか、それに冷や水を浴びせかける声があることは健全で望ましいことだ。その意味で、オバマ演説集よりも、本書のほうを手に取ってほしいと思う。

◇ ◇ ◇

さて1年後の評価はいかに。

友人が、オバマ大統領就任式に行ってきた(>> そのときの映像)。当たり前だが、大統領の姿などヴァーチャル空間にあるのだなと実感させられる。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (横井)
2009-02-10 21:14:53
オバマ大統領は選挙に勝利したけど、実際はまだ何もしていないのに、メディアがヒーローに祭り上げて上げている。これって一種のプロパガンダでは。経済対策も数字だけはデカイが具体的に何をするのかよくわからないし、財源は?なんだか気持ち悪いので、クリティカルに見てしまいます。アフガニスタンではソ連の轍を踏むのでは、とさえ思ってしまうのですが…。
返信する
Unknown (Sightsong)
2009-02-10 22:33:12
横井さん
例のニューディール政策、財源の現実性はきわめて低そうです。さっさと他国から家に帰らない事情はいろいろですが、その構造がそのままだと何もチェンジしないわけですね。
といいつつ、オバマには期待してしまいます。
返信する
Unknown (ひまわり博士)
2009-02-12 02:48:35
この本はぼくも読みましたが、的を射ているところがかなりある反面、書き方が陰謀論的であるところは、イヤな感じがします。それは同感。

しかし、「アメリカ」という特異なシステムの中では、真にリベラルな存在は封殺されてしまいます。
オバマが政治家として頂点に上り詰めるには、100%リベラルではかなわなかったのでしょう。
罪があるとしたら、それはオバマにではなく、「アメリカ」というシステムにあると思うのです。
したがって、オバマの正体が額面通りのリベラルであろうと、この本にあるような偽物であろうと大差はないと考えています。

ですから、当初からぼくはオバマ個人には期待していません。残念ながら、大統領をすらコントロールする巨大な力に逆らってまで、「チェンジ」が達成できるとは考えにくいです。

期待するとすれば、それは夢を描いてオバマを選んだアメリカ国民に、「チェンジ」を期待したいと思います。
国民の中にこそ、「チェンジ」が始まっているのではないでしょうか。
という考え、いかがでしょうか。
返信する
Unknown (Sightsong)
2009-02-12 07:31:12
ひまわり博士さん
なるほど、国民のチェンジ。
大統領にいかに拒否権があろうと、いまでは両議会の勢力を無視しては行政を進められないと言われていますね。大統領選、議会選挙ともに国民の少数の声が届きにくいのでしょうが、国民意識が変わらないことにはどうしようもないことは確かです。その意味で期待したいですね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。