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自縄自縛日記

吉見俊哉『トランプのアメリカに住む』

2018-11-23 08:42:06 | 北米

吉見俊哉『トランプのアメリカに住む』(岩波新書、2018年)を読む。

なぜトランプが大統領になりえたのかについては、金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』において説得力のある報告がなされている。すなわち、人びとの目に留まりやすい大都市の住民ではなく、「ラストベルト(錆びついた工業都市)」など、もはや興隆を誇ることのない産業によって引っ張られてきた地域の住民の動きがあった。中流から貧困層へと滑り落ちてしまうことへの抵抗だった。著者はこの金成氏にもインタビューしつつ、この現象を構造問題としてとらえながらも、複雑骨折の様子についても見出している。

それは「出口のない恐怖」であり、トランプが「彼らの喪失感や恥辱を『敵』への攻撃に転化させる」詐術に気付いてはいても気付かないふりをするという、大きな現象であった。「気付いてはいても気付かないふりをする」とは、日本の社会形成の方向に重なってきてちょっと恐ろしさを覚える。

塊としての動きに抗するものとして個人としての動きを対置するならば、本書で報告されている「#MeToo」や「#ChurchToo」、さらに「#BoycottNRA」、「#NeverAgain」に至るまでのSNSを通じたムーヴメントは、やはり希望にみえる。「性」、「暴力」、「オカネ」はきっと三大「見て見ぬふり」の対象であるから。

●参照
金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』(2017年)
渡辺将人『アメリカ政治の壁』(2016年)
佐藤学さん講演「米国政治の内側から考えるTPP・集団的自衛権―オバマ政権のアジア政策とジレンマ」(2014年)
室謙二『非アメリカを生きる』(2012年)
成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』を読む(2009年)
尾崎哲夫『英単語500でわかる現代アメリカ』(2008年)
吉見俊哉『親米と反米』(2007年)


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