鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

崋山の『訪瓺録』と五所川原の「布嘉」 -その4

2016-05-10 06:03:03 | Weblog
『渡邉崋山と(訪瓺録)三ヶ尻』(熊谷市立図書館)の「事務局注」によれば、『訪瓺録』は「八つ」あるとのことです。①崋山が藩主三宅康直侯に調査報告書として献上した原本。これは「現在は所在が不明です」と記されています。②崋山が三宅康直侯に提出した原本の控え(副本)として作成したもの。この副本は、後に愛知県豊橋市の鈴木まささんという人が手に入れ、模写本を作ったあと、青森県の佐々木嘉太郎氏に譲っている、と記されています。これが正しければ、「布嘉御殿」の炎上とともに焼失したのは、①の原本ではなく、②の副本であるということになります。またこの記述からは、鈴木まささんから佐々木嘉太郎の手に渡ったものと読み取ることができます。この佐々木嘉太郎は、今まで見てきたように、初代嘉太郎ではなく、二代目か三代目の嘉太郎ということになります。その嘉太郎は、鈴木まささんが副本を所有していることを、何かの伝手で知り、多額の金を払って手に入れたものと考えられます。鈴木まささんは副本を大正末年に一日一ページずつ丹念に引き写しをして写本を作り(『渡辺崋山集 第2巻』の解説には「「影写したもの」とあります)、その後、この副本を佐々木嘉太郎氏に譲ったのです。鈴木まささんが丹念に「影写」した写本は、現在、田原市博物館に所蔵されています。これが③の『訪瓺録』(田原市博物館所蔵写本)。④熊谷市三ヶ尻の龍泉寺にある「龍泉寺本」。これは崋山が三宅康直侯に提出する前に、崋山の弟五郎(如山)と弟子の高木梧庵が模写したもの。⑤熊谷市三ヶ尻の大澤氏が所有している「大澤本」。これは④を模写したもの。⑥熊谷市三ヶ尻の蓮沼宅に所蔵されている「蓮沼本」。これも④を模写したもの。⑦「国立国会図書館本」。⑧東京大学総合図書館南葵文庫にある「東大本」。天保5年に模写されたもので、明治38年(1905年)に東大が古本として購入しています。「現存しているもので、確認出来たもの」は、その八つのうち六つである、と記されています。「事務局注」の記された時点において、原本は所在不明であり、副本(これも崋山自筆本)は、昭和19年11月29日の五所川原大火において、すでに焼失してしまっていたのです。 . . . 本文を読む