葛飾北斎の『冨嶽三十六景』に「本所立川」がありますが、これには材木置場で働く職人の姿が描かれています。「西村置場」という名前がその材木置場に付けられていますが、これは実在のものではなく、版元の「西村屋与八」の「西村」を入れたもので、宣伝を兼ねたご愛敬というもの。材木置場の間から見える川が竪川(たてかわ)で、二ツ目之橋に近い辺りから西南方向を眺めたものであるらしい。右端の上に、立てられた材木の間から雪をかぶった富士山が見えています。中央の職人は鋸(のこ)を使い、左下の職人は、きれいに積み上げられた木材の上に立つ仲間に、角材を「えいやっ」と投げ上げています。よく見ると投げ上げられた角材は2本であり、その2本がまったく分離することなく、上に立つ職人の手元に見事に放り上げられています。竪川沿いの材木が密集している静かなたたずまいの中に、その職人たちの見事な気合いや掛け合いが伝わってくるような絵です。地図で見ると、「二ツ目之橋」は、現在の「清澄通り」が竪川を渡っているあたりに架けられていたもので、現在はこの絵に描かれた材木置場の近くに、両国小学校や両国公園、吉良上野介の屋敷跡などがあります。 . . . 本文を読む